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2007.01.26

「PARADISE NOW:パラダイス・ナウ」

これから自爆テロに行く前の恒例のビデオ撮影の場面があるんですが、
撮影時に、声明を読み上げる本人の前で、
党派の幹部達がムシャムシャ食べ始めるというシーンがあります。
ブチ切れた実行犯が、用意された声明を読むのを止めて、
母親に「水道の蛇口はこれを買え」とか述べるシーンがあります。
これは党派政治を痛烈に皮肉ったものです。
パレスチナでもこういう批判を公然と行えるようになれば、
それはパレスチナ社会全体の前進です。
ある女性から、反占領闘争の「別のやり方があるじゃないか」という
説得もあって、その自爆犯は実行に至りません。
私も全く同感です。「もっと別のやり方がある」んだと。

しかしこのビデオ撮影シーンは党派政治への皮肉ではあっても、
真正面からの思想的批判ではありません。
もしムシャムシャものを食べたりせず、厳粛な雰囲気で撮影が行われれば、
それでよいのかという問題です。
党派に対して真正面から批判するのであれば、それは思想的な批判となります。
その党派の戦略・戦術、闘争形態、闘争戦術が
果たして妥当と言えるのか否かという。

自爆テロという闘争形態はもちろん否定されるべきものです。
ちなみに、占領地の占領軍に対する自爆攻撃はテロではありません。
自爆というのは、自分自身を爆弾運搬の手段にするということであって、
その対象が問題です。
占領地の占領軍に対してなら、それは自爆攻撃であり、
イスラエル本国の一般市民に対してなら、それは自爆テロです。

例えば、第二次大戦での日本軍の特攻は自爆攻撃であっても、
自爆テロではありません。
自爆という闘争形態自身も私は肯定できませんが、
圧倒的な力関係の差の下という条件下では、
やむをえない面もあるのかもしれません。
イスラエルの占領により、日々非人間を味わわされている
現地の人がそれを選択するのなら、
自爆という闘争形態を否定する権利は私にはないのかもしれません。
ただ、自爆テロは、絶対に肯定できません。

戦うべき対象は、イスラエル政府の占領政策、軍事行動であり、
一般のイスラエル市民を無差別に攻撃するのは明らかに間違っています。
占領に反対しているイスラエル人も多いのです。
自爆テロは、イスラエル人をパレスチナ人の反対の側に
押しやる効果しか有していないと思います。
そうではなく、全く反対に、
『敵の味方化』こそを目指すべきだと思います。
『他国を占領する国家は自由ではあり得ない』のです。
他国を占領し続けることを止めることを、
イスラエル国民の多数派たらしめることをこそ目指すべきです。

いわゆる「囚人文書」の内容で、つまり、
・占領地の占領軍に対する攻撃にのみ限定する
・イスラエル本国の一般市民への攻撃は行わない
・パレスチナ内部の路線の違いを暴力的手段で解決しない

これら諸点に全面的に賛成です。

こういう基本路線を堅持し、
パレスチナの統一戦線を結成し、
占領を終わらせ、
パレスチナ国家を樹立する。

私はこのことを確信しています。


<参照>
「麦の穂をゆらす風」:『分断して統治せよ』:内戦を誘う者達とそれに抗する論理と倫理
http://ima-ikiteiruhushigi.cocolog-nifty.com/palestine/2006/12/post_6f51.html

「パレスチナ内部の問題ではなく」(アミラ・ハス)
http://ima-ikiteiruhushigi.cocolog-nifty.com/palestine/2006/12/post_dfff.html

パレスチナの葛藤:川上泰徳
http://www.asahi.com/international/kawakami/TKY200701240227.html

『パラダイス・ナウ』のハーニー・アブーアサド監督に直接インタビュー
(インタビュアー:山本薫氏:「悲楽観屋サイードの失踪にまつわる奇妙な出来事」 訳者)
http://www.el.tufs.ac.jp/prmeis/html/pc/News20070227_141011.html

ハニ・アブ・アサド監督インタビュー
http://www.uplink.co.jp/paradisenow/interview.php

試写会での監督Q&Aの動画 (4分32秒) (2007/02/21)
http://www.uplink.co.jp/paradisenow/log/001847.php

自爆を決意させるものは何か?
監督インタビュー (ビデオ映像 13分29秒)
http://www.ourplanet-tv.org/main/main.html
http://www.ourplanet-tv.org/video/070228contact.asx

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