アッバス議長:NHKとのインタビュー
「和平は近づいたのか~パレスチナ・アッバス議長~」
NHKクローズアップ現代(2005.5.16(月)放映)
<今の状況をどのように捉えているか?>
「事態は沈静化しており、衝突は収まっています。
確かに双方の一部で問題は起きています。
しかし、暴力はほとんど抑えられています。
ごく一部のグループが和平プロセスを妨害しようとしているだけです。
我々はこうした行動を阻止するため全力を尽くしており、
いずれ成功するでしょう」
「今もイスラエルの軍事作戦は続き、攻撃が行われています。
しかし、これまでとは状況は違います。
イスラエル軍による拘束や殺害は単発的なものです。
イスラエルとは日常的に連絡を取り合っています。
状況を把握し、暴力行為を阻止するためです。
ただ決して楽観はできません。
再び暴力が激化する可能性もあります。
私達は治安の確保と和平プロセスの進展を望んでいます。
その実現は私達パレスチナとイスラエルの出方しだいです」
<アラファト議長と武装闘争にも参加された経験をお持ちですけども、
何故和平の道は対話でしかないと信じるようになられたんでしょうか?>
「確かに私はパレスチナの解放闘争を始めたメンバーの一人です。
当初は武力を用い、武力に頼っていました。
それが和平を実現するための手段だったのです。
戦うこと自体が目的だったわけではありません。
私達が武装闘争を始めたのは、和平を実現するためであり、
イスラエルに交渉相手と認めさせるためだったのです。
その後私は、イスラエルの人々や世界各地のユダヤ人に
共存の必要性を呼びかけてきました。
パレスチナ暫定自治に関する交渉にも責任者として臨みました。
交渉はうまく合意に達し、私は和平プロセスに関する
イスラエルとの全ての合意文書に署名しています。
対話によってこそ和平は実現されるという考えを早くから持っていました。
私達パレスチナ人は難民として祖国を追われた当初は、
国際社会は私達のことに関心を持ってくれませんでした。
だから世界の関心を引くために武装闘争という手段を用いたのです。
私の政治手法は交渉と外交努力を基にしています。
武装闘争の路線には戻りません。
平和を信望し、民主主義を信じていることを世界に証明したいと思います」
<議長に就任されてからパレスチナ内部のまとまりを維持していく難しさは?>
「議長になってから私達は様々な声に耳を傾け、
多くの取り組みを進めてきました。
民主主義の実践や治安機関の統合、それに経済や財政、
司法の改革を始めました。
これらの全てについて実際に行動を起こしたのです。
更に治安機関の人事刷新にも取り組み、多くの幹部を交代させました。
改革は進んでいます。確かに困難ではありますが、今後も続けていきます。
短い期間にしては、成果は十分挙がっていると思います」
<パレスチナ過激派による迫撃砲・ロケット弾による入植地・イスラエル領への
攻撃が続いている。法律的にみて、武器を持つことが許されるのは治安当局
だけだと繰り返し仰っているが、もし武装解除という方法を強権的に行うこと
によって、内部対立、内戦という事態を懸念されているんでしょうか?>
「それを強行すれば内戦が起きる可能性もあるでしょう。
私達は治安機関以外が武器を所持することを禁止しています。
そして過激派を政治組織に移行させることにしています。
パレスチナの各組織は、こうした方針に同意しているのですから、
パレスチナ人同士が武力で対決することはなくなるはずです」
<ハマスが七月の自治評議会選挙でも躍進すると議長にとって誤算ですか?>
「そうは思いません。
私達自身が民主的なプロセスを受け入れた以上、民主主義のルール、
つまり投票の結果を受け入れなければなりません。
人々の決定はどんな結果でも受け入れる。それが民主主義というものです。
イスラエルの外相は、ハマスが選挙で勢力を拡大したら、
ガザからの撤退を中止すると言いましたが、非民主的な発言です。
自分の都合に合わせた民主主義など受け入れられません」
<これだけハマスへの支持が集まるというのは、今の指導者、これまでの指導者
に対する不満が強いという表れ。今までの何が間違っていたとお考えですか?>
「指導部への不満が、ハマスが人々の支持を集めている要因の
一つかもしれません。ですから私達は改革を主張しているんです」
<ガザ撤退が最初で最後になる恐れを持っていらっしゃいませんか?>
「シャロン首相自身も占領地から撤退するのは、ガザが最初で最後だと考えて
いるかもしれません。そんなことは受け入れられません。
米にもイスラエルにも、この考えは伝えています。
和平への進め方を定めたロードマップに沿って、ガザからの撤退の後、
西岸からも撤退しなければならないのです」
<ガザから撤退する一方で、入植地の拡大を行い、壁建設をしています。
イスラエルの政策のパッケージになったような現状をどのように捉えるか?>
「それは平和を望まない者の戦略です。
平和を望む者は入植地を拡大したりはしません。矛盾しています。
ガザ地区の入植地から出て行きながら、西岸では入植地を拡大するなんて
一体何を考えているのでしょうか。
パレスチナ人は毎日のように土地を奪われ、入植地が建設されるのを
目の当たりにすれば、平和への希望を失ってしまいます。
イスラエルがパレスチナの土地に侵入して家を建て、自分のものだと言って、
既成事実を積み上げようとするなら、何の解決にもなりません。
問題を本当に解決したいのであれば、まずイスラエルがパレスチナ人の権利を
認めるべきです。私達もイスラエルの領土と存在を認めます。
お互いに平和と安全の下、暮らしていけるのです。
イスラエルは、平和には対価が必要だということを理解すべきです。
イスラエルがパレスチナの土地から撤退すれば、
私達は彼らを正常な国として承認します」
<パレスチナの人々は、首脳会談が開かれても何にも変わっていないという
気持ちが強いのではありませんか>
「イスラエルは連日続けている入植地や壁の建設を止めるべきです。
壁は人種差別につながります。あんな壁があってはいけません。
壁は暴力を止めることも、武力衝突を止めることもできないのです。
その一方で、壁は相互の信頼を断ち切ってしまうのです。
パレスチナとイスラエルの人々が共に安全で平和に暮らすために
信頼関係を築かねばなりません」
<米の姿勢を公平で公正だと感じていますか?>
「公正だとまでは言えません。
ブッシュ大統領は、和平の実現に真剣であるとは思います。
ただ本当に公正かどうかは最終的な交渉が始まった時に分かるでしょう。
その時、米の態度が公正かつ公平か、それともイスラエルびいきか
分かるはずです」
<アラファト議長に対しては、テロを抑え込まないと交渉相手にしなかった。
一方で入植地をロードマップに反して拡大するシャロン首相に対しては
何の罰則も与えない米の姿勢は?>
「まさにその点が最大の問題なのです。
米はイスラエルも同じように扱うべきです。
一方が過ちを犯した時、それを罰するならば、
もう一方が過ちを犯した時も罰するべきです。
しかし米はそうはしていません。
アラファト議長がイスラエルによって三年間も軟禁状態におかれましたが、
米はその責任をアラファト議長になすり付けました。
シャロン首相は実に多くの過ちをパレスチナ人に対して犯しているのですよ」
<合意までかなり近づいた所まである一時来ていましたが、
この四年余りの間にこれだけ事態が悪化しました>
「今後できるだけの努力をしていきます。ただ私の力だけでは不可能です。
イスラエル側の協力が欠かせません。
この紛争は百年以上続いてきたのですから、一週間や二週間程度の会談で
全てを解決することなど不可能です。交渉は続けなければなりません」
<対話と圧力が必要だという声も聞こえて来るんですが、
本当に対話だけで和平は可能ですか?>
「私達が求めているのは、対話と交渉です。
圧力はむしろイスラエルの国民がシャロン首相に対してかけるべきでしょう。
国際社会と超大国もシャロン首相に圧力をかけるべきです。
私達は暴力に訴えたいとは考えていません。
世界はそのことを理解して欲しい。
もし国際社会の助けがなければ、私達は希望を失ってしまうでしょう。
希望を失った人々を抑えることはできません。
世界はパレスチナ人の希望を奪ってはなりません。
今私達には希望があります。暴力の文化と決別したのです。
パレスチナ人が希望を失わず、権利を回復するために助けが必要です。
それはイスラエルの問題でもあり、また全世界の問題でもあると言える
でしょう」
<私の感想>
「和平に逆行する既成事実を積み重ねているイスラエルに対して、
打つ手がないと語っていました。
パレスチナ人の希望が奪われないよう、国際社会からイスラエルに圧力を
かけて欲しいと最後に切々と訴えていた姿から、新しいパレスチナの
リーダーが置かれている極めて厳しい状況が浮かび上がっていた」と
国谷裕子女史は感想を述べていました。
アッバス議長が語る過去に少々歴史の偽造も感じましたが、まあいいでしょう。
確かに、国際社会が、イスラエルの
・合意に反する入植地の拡大
・壁建設
に対して、圧力をかけるべきだと思います。
しかし、最大の支援国アメリカが、それを止めようとしないということが、
最大の問題点だと思います。
小泉首相は、パレスチナに一億ドルの支援を約束しました。
来日するシャロン首相に対して、合意に反する行為、つまり、
西岸での入植地の拡大と壁建設を停止しなければ、
イスラエルに対して今後援助しないと圧力をかけて欲しいです。
日本一国だけの圧力では、不足ですが、日本がそういう姿勢を示すことは、
とても重要だと思います。
日本のアラブ諸国への国益という観点からも大切だと思うのですが、、、
今、現在が出発点だと思うのです
歴史的過去は決して消せません。
いかに現在からみて、都合が悪かろうと、過去は事実として決して消せません。
過去の諸事実をきちんと何度でも再確認することは、とても大切だと思います。
パレスチナ武装勢力が過去、数多くのひどいことをしてきたのは、事実です。
イスラエル政府・軍が、数多くのひどいことをしてきたのも事実です。
過去を、無かったことにしろとは、誰も言わないでしょう。
しかし、問題なのは、今、現在から出発することです。
具体的には、今年の停戦合意以降です。
<イスラエル政府>と<パレスチナ暫定自治政府>
この二実体が、<合意した内容>が基準です。
確かに、パレスチナ過激派による暴力行為が、2、3件発生しました。
(イスラム聖戦とアルアクサですよね? ハマスは合意以降はやっていないと
思っているのですが、認識が間違っていますか?)
これらに対して、<パレスチナ暫定自治政府>は、取り締まろうとしていると
思っています。
かつて、「アラファトはテロを容認している」というような声、
つまり、アッバスも、アラファト同様に「テロを容認している」とは、
私には思えません。
イスラエルは、「手ぬるい」「武装解除せよ」と言っています。
しかし、ハマスは、選挙で躍進し、評議会選挙でも躍進が予想されています。
現実には、ハマスを、選挙政党として、成長させることの方が、強権による抑圧
より、本質的な解決という内実を持っているのではないかと考えています。
現実に、ハマスは、停戦を守っているのではないかと思っています。
確かにハマスは、<選挙>と<武装闘争>という二本立てだと思います。
しかし、選挙で躍進すればするほど、武装闘争には戻りにくくなっていくのでは
ないでしょうか。
イスラエル政府は、入植地拡大停止を合意したのではなかったのですか?
もし、合意したのであれば、合意違反なのではないですか?
・受刑者の釈放:2月に500人釈放以来進展なし
・西岸五都市の治安維持権の移譲:二か所実施以降は凍結
・検問所の撤去も進んでいない
永遠の今
西田幾多郎は、
「過去からおくられ、未来を孕む『永遠の今』」と語りました。
今、現在は、過去からの直接延長線上に於いてあります。
過去の肯定的要素・否定的要素ともども引き受け、
その上で、今、現在があります。
過去の出来事、恨み、怨念をも引き受けて、
今、現在があり、それを引き受けた人々が、
新たな、第一歩を為したのだと思っています。
ただ、一人、一人、その内実は異なります。
だからこそ、相互を代表する、
主権国家たるイスラエルの<イスラエル政府>と
パレスチナ民衆に選挙で選ばれた<暫定自治政府>
という相互の民衆によって選ばれた二実体が<合意した内容>は、
たとえ意見が異なる他の人々をも拘束します。
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