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2007.04.11

「イラク占領:戦争と抵抗」(パトリック・コバーン)

筆者がグリーンゾーンの防衛省で防衛相と会見した後、
防衛相は別の会議へと去って行った。
防衛相の秘書にグリーンゾーンの入り口まで車で送ってもらえないかと
頼んだ筆者に、秘書は無理だと答える。
大臣の側近は全員、一緒について行ってしまってもう誰も残っていないと。
「そう言われた瞬間、私は全てを理解した。イラク防衛省には、たった十数人
しかイラク人スタッフがいない。それなのにアメリカは、軍事権限を
委譲しようとしている。これはもう取り繕い以外の何ものでもないと」
「傀儡政権」「グリーンゾーン政治」そういう政治論議も重要だ。
しかし筆者は、グリーンゾーン政治の何たるかを
極めてリアルに実感を伴って理解させてくれる。

バース党高官たった二万人を追放しただけなのにどうして、、、
ブレマーは後日回想録で当惑気味で書いている。
しかし筆者は言う。
「それこそ彼のイラク理解の底の浅さを示すものだ」と。
「イラクは大量失業下にあったのだ。
シーア派もクルド人も帰国した亡命者も、
バース党員のスンニ派を一人でも多く職場から追放して、
代わりに職を得ようとするのは当然のことだった」
表層的な認識を遥かに凌駕する達見だ。
イラクに深く内在しない限り到達できない認識だ。

仏企業の米駐在員がイラクでの事業参入できず、
高報酬を貰っていながら心苦しいと仏本社に連絡した。
仏企業の会長は、こう言って笑い飛ばしたそうだ。
「心配しなくてもいい。どうせ一、二年もすれば、
米企業はイラクで仕事ができなくなってしまう」
フランスは政治家も企業家もよく実情を理解している。

「イラクを破壊しているのは、占領とテロと汚職」
老練なクルド指導者オスマン博士はそう語る。
私もそうだと思う。
アメリカの占領を批判することは容易い。
しかしイラクの側の否定面をそれとして受け止めねばならない。
<参照>
「汚職で80億ドル無駄に」 イラクで援助の私物化批判
http://www2.asahi.com/special/iraq/TKY200704070093.html

フセインの惨憺たる統治を通じて「世俗的民族主義」は失墜し、
サダム後のイラクで勝利を収めたのは、伝統宗教ではなく、
宗教とイラク・ナショナリズム及びポピュリズムを
結合した運動を築き上げることに成功したサドルだと。
真の勝者は「宗教民族主義」だと筆者は分析している。

バグダッド陥落四周年を記念してサドル派が開いた
聖地ナジャフでの集会には数十万人が参加した。
「イラクの統一を強調する為、宗教色を一切排除せよ」というサドル師の指示で
イラク国旗が前面に掲げられ、林立した。
なるほど筆者の分析を裏付ける動きだ。
<参照>
ナジャフでのサドル派のデモ:スンニ派も参加
http://ima-ikiteiruhushigi.cocolog-nifty.com/iraq/2007/04/post_907f.html


三月にレバノンの歌謡コンテストで、イラク人女性歌手が優勝した。
一般のイラク人は、スンニ派もシーア派もクルド人も、皆、彼女を応援し、
優勝を供に喜び合う姿を通して、七百万票という数字を通して、
統一イラクを支持する<サイレントマジョリティ>を自ら示した。
『宗派抗争』と呼ばれていますが、「内戦」と呼ばれるが、
一般民衆は、決してそんなことを望んでいないし、反対しているということを
こういうかたちではあれ、示していると思う。
あるがままのナショナリズムを無条件で肯定はしないが、
占領により分断されつつあるイラクという現状に於いては、
イラクの分裂を食い止めという積極的意義を有している限りにおいて
私はイラクナショナリズムを現段階では支持する。
<参照>
イラクの女性歌手の優勝:民衆のイラク統一の意思表示:Shada Hassoun
http://ima-ikiteiruhushigi.cocolog-nifty.com/iraq/2007/04/shada_hassoon_9cc3.html


2600万人のイラク国民の内、既に400万人は国内外の避難民となってしまった。
六、七人に一人、六、七軒に一軒は、住み慣れた家を出て、さ迷っている。
イラクは既に破綻国家だ。

イラクの破綻は同時に一超帝国の没落ももたらした。
四年前絶頂にあった一超帝国は、現在一超帝国支配の終焉を迎えている。
それをもたらした本質的要因はイラク民衆の抵抗だ。


混迷するイラク、出口の見えないイラク
バグダッド周辺は文字通り地獄に変わり果てたイラク
イラク再甦の道はまだ見えない。

サドル派は、イラク・ナショナリズムを前面に掲げ、占領に反対し、
統一イラクの維持というスンニ派への歩み寄りとも解釈できる動きがある。
スンニ派地元武装勢力とスンニ派部族は
イラクのアルカイダと戦闘を始めている。
スンニ派の兄弟が、シーア派の兄弟を無差別に殺害するアルカイダを
自らの血を流して戦っているということが続けば、
シーア派のスンニ派への考えも変わっていく可能性がある。
シーア派暗殺部隊によるスンニ派市民殺害が減っていけば、
スンニ派のシーア派への考えも変わっていく可能性がある。
<参照>
イラク・イスラム軍がアルカイダ非難声明 (Al-Jazeera)
http://ima-ikiteiruhushigi.cocolog-nifty.com/iraq/2007/04/aljazeera_1245.html

イラク再甦の実在的可能性は存してはいる。

しかし傷口は余りに深い。
この怨嗟は数十年では解消できるものではない。
しかしそれでもイラクを再甦させていかねばならない。


イラク国内で西側メディアが自由に取材できたのは2004年中頃までであり、
それ以降はメディア自体が攻撃対象になってしまった。
2006年、西側メディアでバグダッドに駐在するのは、
指折り数えるくらいしか残っていない。
日本ではNHKだけだ。
BBCやニューヨークタイムズは常駐しているが、取材時には武装した護衛を
何人も付け、一つ所で取材するのは15分以内だとBBCの記者は述べている。
そんなバグダッドで取材を続ける筆者は
イギリスのインディペンデント紙の記者だ。
記事はインディペンデント紙のサイトで読むことができる。
http://news.independent.co.uk/world/middle_east/

この本はそんな筆者のイラク戦争前から2006年までの
イラクでの取材の集大成だ。
何十人ものイラク現地の人々の生の声を収録している。
各派の政治家、市民、農民、大学教授、医師、元軍人等々。
文字通り足で稼いだ貴重な記録だ。
取材がメインというより、筆者のイラク分析も読み応えがある。

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