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2006.05.06

米軍は勝てません

「米軍の兵士は、内戦に割って入り戦闘を止めようと試みていないし、
イラク人を守っている訳でも、治安の改善に貢献している訳でも、
イラク人の人心を勝ち取っている訳でもない。
アメリカのイラク占領は、この国を破壊し、
いまや血生臭い国家分裂が起きようとしている」
(Nir Rosen:FOREIGN AFFAIRS:March 2006)


「米軍は敵が誰であるか分からない状態で、
当事者よりも傍観者としての役割に追いやられている。
今や力を持っているのは武装組織と宗教指導者だ。
イラク議会、そして権力ポストを射止めることにしか関心がない政治家が
国を管理できると信じているふりをするのを我々は止めて、
力を持つ勢力と交渉する必要がある」
(Marina Ottaway:FOREIGN AFFAIRS:March 2006)

米軍はイラクで勝てません。
負けはしませんけれども。

それはスンニ派地元武装勢力も同様で、
彼らも勝てはしないけれども、負けはしません。

スンニ派地元武装勢力が、現在の戦術を採る限り、つまり
・IED
・IEDと待ち伏せ攻撃の組み合わせ
・スナイパーによる狙撃

この戦術を採る限り、軍事的には、
米軍は負けはしませんが、勝てもしません。
スンニ派地元武装勢力側も勝てはしませんが、負けもしません。

ブレジンスキー氏がそれを正しくも「消耗戦」だと喝破しています。


世界最強の米軍に負けていないというだけでも、
大いに善戦していると言えると思いますよ。

ひょっとしたら、アメリカの世界戦略を転換させてしまったとまで
言えるかもしれません、それ程の大きな効果があったと思いますよ。

アフガニスタンで、スティンガーという一つの武器が果たした役割を
想起させますね。
何とあのソ連圏を崩壊させてしまったんですからね。
(それはちょっと単純化し過ぎていますね、
もっと政治的・経済的要因が根底ですが)


もちろん、スンニ派一般住民の多数が、
「屈辱と感じても、とにかく武力抵抗をやめて、平和的に政治に参加し、
なるべく早くアメリカに出ていってもら」おうと自分達自身で、
決めるのなら、私もそれについて反対もしません。
確かにそうなるかもしれませんね。


私の危惧は、Takfiris です。
狂信的な反シーア派主義者です。


私は、従来は、
・ごく少数のアルカイダ系
・大多数の地元武装勢力

という単純なニ分法でしか認識していなかったのですが、
数十から百とかというグループ数の武装勢力には、多種多様で、
そんなニ分法では、類別できないのではないかという直感があります。
例えば、アルカイダではないのだが、シーア派の殺害は容認するとか、
もっと色々な要素が混在しているようにも思えます。

例えば、ハマスはアルカイダとは全然違いますが、
無差別テロを一部認めています。
そのように、無差別テロを絶対に認めないという訳では
必ずしもないという組織も多いのかもしれません。


そうはいっても、スンニ派武装勢力の内、主要な組織はいくつかに絞られます。
・イラク・イスラム軍
・ムジャヒディン軍
・1920年革命旅団
・アンサール・スンナ

米軍への攻撃をサイト上で声明する主要組織は
この四組織に限定されていると言えるのではないでしょうか。

かつての停戦を申し出たレジスタンス十組織の統一司令部というのが、
現在はどうなっているのか、私には分かりません。
その十組織と上記の四組織との関係も分かりません。
重なっているのか、全然別なのかも分かりません。

上記四組織はタラバニ大統領との交渉を否定しています。
停戦といっても、一体どの組織と交渉すればいいのかさえ分かりません。
しかし、それでも、停戦交渉をする必要があると思います。
是非頑張って欲しいです。
アチェでは武装解除し、政治犯も釈放され、政治参加の方向に向かっています。
IRAやバスクでも同様の方向に向かっています。

交渉し、停戦し、政治参加への方向に向かう、
イラクでもできないことはないと思っています。

「イランの核開発に打つ手はあるか」(FOREIGN AFFAIRS)(論座6月号)

「確かに03年から04年にかけては、テヘランはアメリカのことを恐れていた。
アフガニスタンにもイラクにもアメリカが軍事プレゼンスを持っていたからだ。
だがそうした情況は今や消え去りつつある。CNNをみれば、
アメリカがイラクの泥沼に足を取られていることは誰にでもわかる」
(リュエル・マーク・ゲレット:アメリカン・エンタープライズ研究所)

「イランは既にイラクで大きなネットワークを築き上げており、
アメリカに大きなダメージを与える力を持っている。
アメリカに積極的に協力している訳ではないが、
イランは、自分達の利益からみて、
イラクでの内戦を煽り立てるべきではないと判断し、
自分達と関係の深いイラクのシーア派に
アメリカの復興・再建活動に参加することを促した。
我々がイラクで何がしかの成功を収めている部分があるとすれば、
こうしたイランの路線が幸いしている。
イラクがまだ完全に無力化していないとすれば、
それは、イランが自己利益の観点から
イラクにおいてはアメリカとの協調路線を選んだからだ。
しかし、我々がイランを空爆すれば、
イラク情勢を巡るイランの判断は根本的に変化する筈だ」
(ケニース・M・ポラック:ブルッキングス研究所)

「イラク人の協力なしで、イラン人がイラクでできることには限界がある。
もちろんイランのイラク介入によって米軍が身動きがとれなくなる危険もある。
おそらくペンタゴンは、イラクが更なる混迷に陥れられることを懸念して、
イランに対する予防攻撃には反対するだろう」
(リュエル・マーク・ゲレット:アメリカン・エンタープライズ研究所)

「限定的な攻撃が、無限大の軍事作戦へとエスカレートしていく危険がある」
(リチャード・N・ハース:米外交問題評議会会長)


交渉と妥協;共存と並存

そもそも、イラクで、政治的権利意識すら存在していたとも思えません。
大衆的なデモですら、殆ど経験がないでしょうね。
自由意志による投票も初めてでしょうね。(1962年以来かな?)
一千万人以上の自由意志による投票により選出された政治的代表達が、
その支持基盤を背景に、政治的ネゴシエーションを行う経験も、
政治家自身にとっても初めてでしょうからね。
民衆も政治家も、武装勢力でさえ、
色々と学びつつあると思います。

交渉し、妥協するということをマスターすることも重要なことですね。

スンニ派地域での警察官は、もう何年も前から、地元の人間だったと思います。
「ファルージャ 栄光なき死闘」でもそう記述されています。

私はスンニ派地域で、スンニ派地元住民自身が
アルカイダ系と戦うことを支持します。

1920年革命旅団やアンバール革命軍は、アルカイダと戦うとはっきり述べて
いるし、他の組織にも呼びかけています。
私はそれを肯定的にみています。

しかし、スンニ派地域では、
・イラク軍
・イラク警察を傀儡だと判断し、攻撃し、殺害する諸組織もあります。
アルカイダ系だけでなく、レジスタンスもそうです。

米軍が存在する以上、イラク警察・軍は傀儡側、占領者の協力者だとい
彼らの決めつけにも、一定の根拠はあります。
現に現状ではスンニ派地域にいるイラク軍はシーア・クルド主体ですからね。

しかし、実際に応募する地元スンニ派の人達は、
・高失業率であるから経済的理由であったり、
・現状のイラク軍は、シーア派・クルド主体で、彼らがスンニ派地域で
地元スンニ派に蛮行を働いている。
だから、俺達が、自分の街を自分達で守るんだという、
積極的な要素もあると思います。

しかし、せっかくのその積極的な要素も、
米軍と協力している以上、殺害の対象になってしまうという問題があります。

ここでは、
<占領容認派>と<占領反対派>というのが、本質的な対立です。

もし、米軍が、この問題に本気で対処しようと思うなら、
そこまで踏み込んで、
・スンニ派地域では、現状のようにシーア・クルド主体ではなく
 スンニ派主体の治安維持部隊に、
 スンニ派地域では治安維持活動を担ってもらうこと
・その場合、米軍は、距離を置くこと。
 何故なら、米軍と協働していれば、殺害の対象となってしまうのだからです。

本当は、その都市から撤退すべきだと思います。
その一都市だけでもよいから、一都市ずつ、
スンニ派主体の治安維持部隊だけで、治安維持活動を担わせたらどうですか。
そしてその面を広げていけばどうですか。

地元でのコンセンサスが大事だと思います。
地元住民が合意していること。
つまり、
・米軍はその一都市に立ち入らない。
・スンニ派主体の治安維持部隊が、その一都市の治安維持を担う
・部族、長老、有力者が合意し、
 スンニ派治安部隊を攻撃する者は、レジスタンスではないと警告する
・できれば、アルカイダとは戦うと表明しているレジスタンスを
 巻き込む。
 ・米軍がその一都市から撤退するのなら、
  治安部隊を攻撃しないという言質を得る。
 ・更には、そういうレジスタンスを治安部隊に編入する。

ダルフールでは、武装勢力を正規軍に編入することで合意しました。
イラクでも、反政府武装勢力を、正規軍に編入する努力も
必要ではないでしょうか。

決して不可能だとも思えません。
ただ一つ、二つの都市で、実験的に行ってみればどうですか。
駄目なら、駄目でまた考えればいいではないですか。

スンニ派の地域とは、
・アンバール県(州都ラマディ)
・サラハッディン県(州都サマラ)
・ニナワ県(州都モスル)
・ディヤラ県(州都バクバ)
(バグダッドは混住地域ですから、とりあえず捨象しています)


FOREIGN AFFAIRS (日本語版2月号)
http://ima-ikiteiruhushigi.cocolog-nifty.com/iraq/2006/03/foreign_affairs_2946.html
「イラクの今後を左右するスンニ派とシーア派の関係」
(Shibley Telhami:メリーランド大学教授)
「治安部隊の大半はシーア派とクルド人で構成されており、彼らが、イラク国内
のゲリラ勢力の鎮圧にあたっている。スンニ派サダム時代の圧政に対する昔年の
恨みを晴らそうとスンニ派に報復しようとしていると考えている。
つまり、スンニ派は、現在の治安部隊とは新しいイラクを象徴するような中立的
な部隊ではなく、スンニ派に敵対的な勢力に他ならないとみている。こうした
認識が、宗派・民族間の対立を固定化している部分があるし、このような現実に
対してアメリカに非がない訳でもない。したがって、アメリカの役割は、それが
統合し、安定したイラクの出現を必ずしも保証しないとしても、イラクの権力
構造をあえて宗派や民族ラインに即したものへと変えていくことだろう。
無論、それに伴って各集団の自治を認めれば、それぞれが武装集団を持つことに
なり、民族紛争が起きれば、ますます凄惨な抗争が展開される恐れもある」


イラク軍単独かどうかが、問題ではなく、
①スンニ派地域では、スンニ派主体のイラク軍が
②米軍とは共同せず、単独で、

この①と②は、私の中ではセットです。
またセットでなければ意味がありません。
スンニ派地域では、そうでなければ、
地元武装勢力の標的になってしまうからです。


"It is very, very important to include the people of al Anbar
in this national entity, the Iraqi army," Lt. Gen. Peter Chiarelli said.
「アンバール県の人達をイラク軍の組織に入れるのが極めて重要だ」
(LT GEN PETER CHIARELLI:Cmdr,Multinational Forces (Iraq))

The United States had high hopes for the Sunni recruits here in Anbar
Province. Officials worry that without their participation,
the Sunni population will resent the military.
アメリカはアンバール県のスンニ派の新兵に大きな期待を持っていました。
当局はもっとスンニ派が軍に参加なしでは、
スンニ派の住民が軍に憤慨するであろうことを懸念しています。

さすがに、現場の米軍の指揮官達は実情をよく理解しているのではないですか。
スンニ派地域で、スンニ派の軍でなければ、地元住民が憤慨すると、
きちんと理解していますね。
しかも諦めていないという点も重要だと思います。

The American generals were visibly frustrated,
with Lt. Gen. Martin Dempsey saying, "in the strongest possible terms,
I advise you not to ruin the one national institution you have."
米軍の将官は、はっきりと落胆していました。
マーティン・デンプシー大将は、「国の中で機能している組織、少なくとも
これは破壊させないようにと強く助言する次第です」

また、統合か三分割固定化かという別の問題もあります。

With sectarian tensions on the rise, U.S. military officials fear that
dividing the Iraqi military would divide the nation and play into
the insurgents' hands.
分派的な緊張が高まっている中で、軍当局者はイラク軍を分けることは
国を分裂させて、武装勢力の術中にはまるであろうことを恐れます

イラクの将校でさえ、軍隊を地理や宗教勢力別にするのは、
国を分裂させることになると懸念しています。
「サドル師の下での旅団、クルド人は別の旅団を望むようになります」
(GEN NASIR ABADI:Deputy Commander,Iraqi Army)


確かに、シーア、スンニ、クルドと、
それぞれの地域で、それぞれの民族・宗派の軍が治めるのであれば、
それは内戦を措定するものとして問題です。

統一国家イラクという意識を持った統一イラク軍の形成が当面の最終目標では
ありますが、
まずは、現在の情況はどうなっているのかから出発せねばなりません。
クルドではペシュメルガが治安維持を担っています。
シーア派地域では各シーア派民兵が治安維持を行っています。
(シーア派地域のイラク軍もシーア派主体だと
認識しているのですが違うのでしょうか?)

しかるに、スンニ派地域でのみ、理想的に民族・宗派に偏った軍構成に
してはいけないとはなりません。
クルド、シーアでの現状との対比で、考えなければならないと思います。
つまり、理想は更に先の段階で、
今現在求められていることは、
スンニ派地域でも、クルド・シーアと同様にせねば、
平等・対等ではないということです。
それが理想とは正反対でも、現状では、対等・平等の方が優先だと思います。
そして、その三戦力のバランスの上に、
次なる段階では、軍の民族・宗派別構成を、
三地域同時に、平等に進めなければならないと思います。

要するに、クルド、シーア地域では、地元勢力が体制側になっているのに、
スンニ派地域でだけ、そうではないのは、不平等です。
そして現実にスンニ派地域でシーア・クルド主体の軍が、
スンニ派地元住民を虐待しているのが現状の問題点です。
だからこそ地元武装勢力が地元民に支持されているのです。

しかも、そういう現状に憤り、
俺達が俺達の街を守るんだという積極的な意思を持つ者が、
イラク警察・イラク軍に加わっても、
米軍と共同行動をとれば、現状では武装勢力のターゲットとされるのです。

これでは、悪循環です。
この悪循環をどう断ち切るかが問われていると思います。

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