「イラク帰還兵:心の闇とたたかう」
イラクから帰還した兵士の6人に1人はPTSD(心的外傷後ストレス障害)など
精神的に深刻な問題を抱えています。
「人混みの中にいると不安になります。
逃げ道を確保し、いざという時に使える武器を探してしまうんです」
「イラクでの経験がスローモーションでよみがえりパニックに襲われます
幻覚が現れ頭が混乱してしまいます」
ドイツ・ラムステイン米軍基地
イラクで負傷すると多くはまずドイツに運ばれます。
軍の病院で数日間応急措置を受けます。
「毎週イラクから送還されて来る四、五十人の兵士の内、少なくとも二、三人は
精神に非常に大きな問題を抱えて来ます。その数は増える一方です」
(ランドスツール米軍病院医師)
医師の治療に加えて従軍牧師のカウンセリングが行われます。
「入院している兵士の多くが悪夢を見たり3時間おき位に目が覚めています」
(従軍牧師)
応急措置を終えた兵士は本国アメリカに戻り、本格的な治療を受けます。
ワシントン州ルイス陸軍基地:全米からイラクへの出発基地。
帰還する地でもあります。
基地内のマディガン陸軍病院:常時数十人の患者の治療を行っています。
PTSD患者には、薬の投与、カウンセリング、
眼球運動法(EMDR):眼球を運動することにより脳が刺激せれ、過去の記憶の
整理能力の促進
PTSDの決定的な治療法はまだ見つかっていない
改善が見られない患者は、滞在型の専門病院で長期治療を受ける。
カリフォルニア州退役軍人病院
数ヵ月入院し、毎日カウンセリングを受ける。
20歳の兵士アレックスは、イラクで、不審車に発砲、乗っていた少女に当たり
ます。怪我をした少女を抱え、助けを求めて走りますが、少女は亡くなります。
「兵士は人間の心を持っています。軍服を着たからといって、人間の心の奥底に
あるものまで無くなってしまう訳ではありません。人間としての心が、衝撃的
な出来事と対面した時、彼らを苦しめ始めるのです」
患者のグループ治療:ベトナム戦争、湾岸戦争、イラク戦争と戦場も年齢も違う
帰還兵達が体験を語り、分かち合います。
「花火の音を聞くと、錯乱状態になってしまいます」
帰還後38年経ってようやく治療を始める人もいました。
「38年間人付き合いを避けてきました。余りに多くの人間関係を壊してきました。
その一部でも取り返せれば幸せです」
2004年7月、イラク駐留米兵の精神状態に関する調査報告書が発表されました。
米医学雑誌が軍の協力で行った調査です。2003年10月から12月に帰還した1695人
の内、278人(約16%)がPTSDなど精神的に深刻な問題を抱えている。
<きっかけとなった出来事>
・敵から撃たれた
・市民の殺害に関与した
・仲間が死亡した
・救助されずに負傷している子供や女性を見た
PTSDの症状が改善せず、自宅で療養を続ける帰還兵もいます。
「誰かに狙われる恐怖に脅えています」
「デモをしていただけの無実の民間人を銃殺してしまったのです」
「私の部隊は48時間のうちに30人以上の民間人を殺しました」
民間人を殺害することは罪ですと上官に告げた軍曹は、米国内基地への
配置転換を言い渡されました。
自分の心を納得させられない。
民間人を殺してしまったことがトラウマに。
患者の多くが悪夢にうなされるなど睡眠中の障害に悩まされています。
睡眠時の脳波の状態を詳しく調べています。
PTSDは脳の中の記憶を司る海馬の機能低下によるものと考えられています。
脳の状態を観察するMRI装置の中で、ビデオゲームをすると、PTSD患者は激しく
海馬を使っていることが分かります。
PTSDの事前選別の方法として使うことが考えられています。
戦闘ストレスコントロールチーム
軍医とカウンセラーなど約20人で一チーム
イラクでは、地域ごとにチームが編成され、前線の近くで兵士の精神的な
ケアを行います。問題が起きた場合、いち早く応急措置を取る為です。
前線後方に仮設テントを立て、診療を行っています。
精神的な苦痛を訴えた兵士は、一旦前線から離脱し、ここで数日間、集中的な
カウンセリングを受けます。
「民間人を殺した罪悪感に苦しむ兵士がたくさんいました。そういう兵士とは、
語り合うことが大切でした。我々の武器はそんなに精密ではないので、誤って
殺してしまうことだってある。テロリストは群集の中に身を隠して攻撃をして
くるのだから、民間人の犠牲が出てしまっても仕方が無い。君は応戦する必要
があったんだ。テロリストに対して我々は正当な戦い方をしてきたんだと話し
ました。辛い戦闘経験をしたら、その直後に手当てをすることが大切なのです」
「私の任務は戦力増強要員と呼ばれています。職務の遂行が可能な兵士の数を
できるだけ多く保つという任務です」(精神衛生担当官)
PTSDなどの深刻な病状を抱えている兵士の内、イラクで実際にカウンセリング
や治療を求めた兵士は、23から40%となっています。
<症状を訴えなかった理由>
・仲間からの信頼がなくなる
・上官からの取り扱いが変わるのが怖い
・弱い人間だと思われる
PTSDの治療を続けているある陸軍軍曹は、前線でストレスを訴えた時の軍の
対応が深い心の傷となって残っています。
戦闘ストレスコントロールチームが書いた診断書では、本人が希望すれば、
72時間の集中的なストレス軽減プログラムを受けさせるとなっていました。
治療を申し出ましたが。上官は拒否し、帰国を命令しました。
軍法会議が待っていました。罪名は臆病罪。恐怖の為に任務を遂行できなかった
罪です。最高刑は死刑。
「軍と精神医療医師は妥協できる基準を見つける為にせめぎ合いを続けている」
<参照>
イラク帰還兵 戦争の実態を語る:冬の兵士 - Winter Soldier
http://ima-ikiteiruhushigi.cocolog-nifty.com/iraq/2008/05/winter_soldier_a3c2.html
ホームレス化する女性帰還兵 / 傷つく兵士と"オバマの戦争"米兵を蝕むTBI(外傷性脳損傷)
http://ima-ikiteiruhushigi.cocolog-nifty.com/iraq/2010/03/post-232f.html
「戦場 心の傷:兵士はどう戦わされてきたか / ママはイラクへ行った」
http://ima-ikiteiruhushigi.cocolog-nifty.com/iraq/2008/09/post-b1c8.html
「イラクの戦場に送られる若者たち」 / 「ターゲットは高校生:兵士不足の米国“増兵法”に若者たちが反発」
http://ima-ikiteiruhushigi.cocolog-nifty.com/iraq/2005/04/post_aad9.html
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント