「動き出した米軍太平洋戦略」NHK
(2006.5.30)NHK
「世界各地の紛争地域に兵員を迅速に展開する
米軍の再編に向けた戦略が動き出しました。
(ブッシュ大統領)
『予測できない脅威に対処する為、兵力の再配置を行う』
五月にタイで米軍とアジア各国による大規模な合同軍事演習が行われました。
中心となっているのは、司令部を神奈川座間に移す予定の精鋭部隊です。
演習には日本の自衛隊も参加
各国がどう連携するか訓練しました。
動き出した米太平洋戦略にアジア各国はどう組み込まれるのか
アメリカとタイの間で行われている合同演習コブラ・ゴールドは、
ベトナム戦争後に始まり、四半世紀の歴史を持っています。
当初は共産主義陣営に対抗する意味合いが強いものでしたが、
冷戦が終わり、テロの脅威が増すに従って、
合同演習の性格が変わってきました。
今回中心になっているのは、陸軍第一軍団です。
再編後の米軍ではアジア太平洋戦略の中枢の担う部隊です。
米軍では今回の合同演習を米軍再編の試金石と位置付けています。
アメリカが進める構想の中で日本を含むアジア諸国は、
どう位置づけられ、どのような役割を期待されているのか、
合同演習を通して分析します。
(樺沢一朗記者)
演習が行われたタイは「不安定の弧」の中に位置します。
去年行われた合同演習では、津波などの救援を想定して
各国の連携を図る訓練が行われましたが、
今年は、アジア太平洋地域で起きる紛争を想定して、
どう現地に兵力を展開するかがテーマになりました。
今年は、日本、シンガポール、インドネシアの三か国も参加しました。
演習は12日間、米軍兵士七千人を含む約12000人が参加しました。
この日は、米タイ両軍が水陸両用車で上陸し、
武装勢力の拠点を攻撃するという想定で訓練が行われました。
参加したのは、沖縄に駐留する米海兵隊の緊急展開部隊です。
アジア太平洋地域での有事の際には真っ先に投入される部隊です。
上陸地点から約五百メートル離れた地点です。
ここでは兵士達が武装勢力の拠点を鎮圧する為の作戦を行っています。
武装勢力の拠点を襲撃し、相手を拘束する訓練は、同時多発テロ以降、
テロとの戦いの中でアメリカが特に力を入れている作戦です。
米軍部隊を指揮したのは、在日米軍の再編で
司令部が日本に移転することが決まっている陸軍第一軍団です。
タイ軍など各国の部隊が参加する作戦で主導的な役割を果たしました。
部隊の迅速な展開を可能にしているのが、司令部の情報通信システムです。
本国や部隊への通信に必要なパラボラアンテナは、僅か三時間で設置できます。
『これ一台で同時に五か所の戦場を指揮できます』
自衛隊からは幹部を中心に40人が図上演習に参加しました。
PKO国連平和維持活動を想定したもので、各国が協力して人道支援にあたります
国境紛争を続ける二つの国の間で、更に独立運動が起こり、
大量の難民が発生しているというシナリオです。
初めに国連の安保理決議を受けて、
米軍とタイ軍が紛争を終わらせる為、部隊を派遣します。
そして停戦が合意された段階で、自衛隊など各国がPKO活動を開始します。
『最初は通信システムの構築です』
米軍の他、タイ軍、インドネシア軍など様々な国の代表が参加しました。
この他、自衛隊員は米軍の医療活動の視察を行いました。
自衛隊はこれまで東ティモールなどでPKO活動を行ってきましたが、
殆どの場合、国連軍の司令部に組み込まれることはなく、
単独の活動に終始してきました。
しかし今回は各国の代表と共に司令部の一員として行動する任務となりました。
(武居智久海将補)
『多国間の枠組みというのは、なかなか訓練する機会が御座いませんので、
特に異なった文化、異なった言語の中で、どのような調整をしていくのか、
ということを重視しております。
中でもPKOの任務に関しまして、調整という機会は殆どありませんので、
将来どのようなことをしていけばというような教訓を得ることができればと
思っております』
(米陸軍第一軍団ドゥービック司令官)
『自衛隊には非常に高い専門能力があります。
自衛隊なら多国籍軍の中でも活動能力を大いに高めるでしょう』
<今回の取材は、どの程度許されたんでしょうか>
司令部での取材は僅か十分間とかなり制限された中での取材となりました。
<自衛隊が演習に参加した意義は>
(米陸軍第一軍団ドゥービック司令官)
『アジア太平洋地域の主要国である日本が
この演習に参加したことの意味は大変大きいものがあります。
多くの国が参加することで、この合同演習自体もより意義深いものになります』
<なぜ司令部を移転するのか>
『この十年来、太平洋地域の戦略的重要性は一段と上がりました。
日本という能力の高い同盟国との連携が深まることは、
我が国にとっても大きな利点があると考えています』
<日本が加わった演習をどう受け止めていたんでしょうか>
現場の日米の制服組の人達は、
今回の自衛隊の参加を画期的な出来事だと評価していました。
演習では、各国の代表の中での自衛隊のリーダーシップが際立っていました。
図上演習を指揮した米軍大佐は、
この地域では装備や隊員の能力ともに米軍と自衛隊が抜きん出ている。
自衛隊が参加することで米軍の負担がかなり減ると本音を漏らしていました。
実際に合同演習を取材して、米軍が自衛隊に対して、アジアの他の
同盟国とは違う、より密接な役割を求めているという風に感じました。
米軍の中には、今回の合同演習をきっかけに、
今後自衛隊との一体化を更に進め、
アジア地域の安全保障の一翼を自衛隊にも担って欲しいという
期待が高まっていると感じました。
<アジア太平洋地域は全体の中でどんな位置づけになっているんでしょうか>
(NHK解説委員秋元千秋)
東南アジアは近年急速に経済発展して、人や物の往来が激しくなってきている。
一方で、大量の人や物の往来を管理する体制がまだ十分にできていない。
従って国際テログループの活動拠点が作られたり、
核技術を地下で取り引きする核の闇市場の拠点があったのもこの地域。
最近では中国の影響力が増大しており、南シナ海のエネルギー資源を巡って、
東南アジアの国々と中国が対立する関係も生まれてきている。
アメリカが21世紀の安全保障戦略の中で重視している
・テロ
・核拡散
・中国の影響力
・エネルギー
全ての問題をこの地域は包含している。
<座間キャンプに移転予定の陸軍第一軍団が指揮を執った意味合いは>
米軍再編は軍隊をコンパクトにする一方で、
迅速に行動できる機動性を持たせて、
どんな脅威が発生しても柔軟に対処するということ。
その為に何をするかというと、
米軍隊の統合を計画、まず米軍自体を統合させる必要がある。
陸海空海兵という四つの軍隊がある。
実際にはかなり個別に行動することが非常に多かった。
これを統合して、一つの組織のように活用しよう。
その為に全ての指揮系統を統合した司令部が必要になった。
この司令部が第一軍団司令部。
米西海岸に第一軍団司令部があるが、実は名前は同じだが、全く組織を刷新して
組織の規模や指揮系統も全て変えた新しい司令部を日本につくる。
<これまであった第一軍団司令部が座間に移って来ると受け止めているんですが
そうではなくて、全く新しい、四軍を束ねる新しい司令部が来るということ
なんですか>
ええ、新しい仕組みをつくるということなんです。
アジア太平洋地域で今後有事の際には
日本の第一軍団が指揮を執るという可能性が出てきている。
そういう意味では、今回の演習というのは、
第一軍団の指揮能力を試す為の軍事演習であると言っていいと思います。
<自衛隊が参加したのは、PKOを想定した図上演習で、実践訓練は行わなかった
アメリカとしては、実際の作戦行動に日本がどう関わることを求めているのか>
アジアでの強力な同盟国日本との連携をより一層
東南アジア地域でも進めていきたいと考えていると思う。
確かに演習での自衛隊の役割は、色々な制約があって、
平和維持活動に限られている訳ですけれども、
しかし、軍事的な作戦であろうと、平和維持の活動であろうと、
軍隊は、同じ指揮系統、同じ輸送手段、同じ補給手段を使って動く訳です。
その活動が危険にさらされた場合には、武力も行使する。
その意味では、演習の目的が実戦にあろうと、平和維持活動にあろうと、
軍隊がそうしたものを通じて学び取るものは、実は余り変わりがない。
そういう意味で、今回の演習を見ると、
アメリカやタイは空挺部隊の降下訓練やジャングル戦の訓練をしています。
こういった訓練が並んだ全体の演習のシナリオの一部に、
日本の自衛隊の平和維持活動が組み込まれている訳ですから、
自衛隊は実戦を想定した多国間の合同軍事演習に参加したと
言っていいと思います。
<自衛隊がアジアで活動する米軍と一体になって活動することを期待している
のですか>
アメリカは再編の一環として、同盟国の軍隊との統合も重視している。
軍事的一体化と言ってもいいんですけれども、つまり
米軍と同盟国の軍隊が、役割や任務を分担し合って、
しかも重複を排除して行動すれば、少ないコスト、少ない兵力で、
コストも低く抑えて活動ができる。非常に効率的になる。
コブラ・ゴールド演習をみてみますと、タイやシンガポールの軍隊が
米軍と一緒に行動するという場面が非常に多い。
これは実は米軍再編後の姿を視野に入れたものだろうと思う。
自衛隊参加も同じ脈絡で考える必要がある。
在日米軍の再編をみてみますと、
例えば、日米は、自衛隊基地の共同使用、情報の共有、共同司令部の設置、
こういったことで合意している。
これも将来的には軍事的一体化、統合を目指そうという試みだと解釈される。
<今回の演習は、日米安保条約が想定している周辺での有事とは異なる事態も
想定されていると思うんですが、日米同盟の内実が変わりつつあるということを
象徴的に示しているということですか>
1996年に日米安保の再定義を行い、
日米安全保障体制を、単なる日本を守る為の体制から
アジア太平洋地域の安定の為の新しい枠組みにしようと合意。
この合意の後に、9.11を経験し、核の拡散も深刻になっている。
新しい脅威に直面している。
こういった新しい時代に合わせて、日米同盟も新しく刷新しようという試みが
実は在日米軍の再編の作業。
決して基地を減らすという交渉では必ずしもない。
そういった観点でみてみると、東南アジア地域は、
その中心を日本の生命線とも言えるシーレーンが走っている。
これは日本だけではない、多くの国が関連した重要な地域。
ですから東南アジアが不安定になることは、
多くのアジアの国にとって安全に関わる重大な問題。
だからといって、直ぐに合同軍事演習をするべきだとか、
自衛隊が参加するべきだとかといった面には
多少、意見の相違、見解が分かれると思いますが、
現実に演習を通じて日米が共にこの地域で活動しているということは、
これはまさに日米同盟が変質しているということを物語っている。
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