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2006.04.19

Mohamed ElBaradei:The Doha Debates Special (BBC)

http://www.thedohadebates.com/output/page1.asp

<国際的緊張が高まっていますね。
国連安保理はイランの核開発は
国際秩序に対する脅威だとの声明も発表しています。
戦争の始まりでしょうか>

「そうならないことを願っています。
皆に落ち着くよう呼び掛けています」

<国連安保理にもですか>

「安保理は基本的には、イランに対し信頼の醸成を図るよう求めているんです。
脅しているとは私は思いません。
安保理は国際原子力機関の背後に立って政治的な圧力をかけようとしています。
ですから原子力機関、ひいては私を助けているという
外交努力の新しい段階だと認識しています。
信頼関係を構築する為には協力が必要だということを
イランに理解してもらう為のものなんです。
核計画が平和目的であることを確認する為に是非とも必要なことなんです」

<しかし国際的な緊張は高まっていますね。
パニック状態と言ってもいいんではないですか>

「そういう所は余り気にしないようにしています。
やるべきことがありますからね」

<しかし一般の人が気にしています>

「我々はやるべきことをやるだけです。
そのことを理解して欲しいと思います。
私達の報告書でも分かるように、イランが即刻脅威となる訳ではありません。
しかしイランはこの問題を解決する為に
できるだけ早く我々と協力する必要があるんです。
核開発が平和目的であることを証明しなくてはなりません。
ただ、イランが核兵器の製造に着手したという証拠はありません」

<イラク戦争開始前のようですね>

<それとは比較したくありません」

<明白ではないですか>

「教訓があります。武力行使にはでるべきではありませんね」

<しかし安保理はその方向にいっているのでは>

「そんなことはありません。現段階では私達を支持してくれています」

<しかしイランに関する報告書を30日以内に作るよう求められたのでは>

「イランが要求に応えているかどうか、早く知りたかったからです」

<外交努力と言いますが、制裁、そして武力行為までちらつかせていますね>

「声明では、制裁には触れていません」

<しかし各国の代表の口からその言葉が出ています>

「中には、イランが協力しないのならば、制裁をという意見もあるでしょう。
しかし私は、ちょっと待て、
まず事実を明らかにしようではないかと呼び掛けているんです。
イランは我々と協力する用意があると今日発表しています」

<過去18年間、イランはそう言っています>

「そんなことはありません。
18年間、計画は公表されていなかったんですから」

<つまりイランは嘘をついていた訳ですね>

「当時は制裁下にあったので、公にはできなかったと言っています」

「制度をすり抜けようとしていたことは確かです。
義務を果たしませんでした。
制裁があったので公表はできなかったと言っています。
しかしこのことでイランの信頼が落ちたことも確かです。
ですから信頼回復の為に努力が必要です」

<国際社会は今難しい立場に置かれていますね。
イランに対しウランの濃縮を止めるよう求めていますが、
イランは法的に濃縮を実施する権利があります>

「そうなんです。
我々はイランに対し、濃縮する権利はないと言っている訳ではありません。
権利を否定している人はいないのです。
イランに対し、権利はあるが、過去信用をなくすことをした、
だから一時凍結しろと言っているんです」

<権利はあるが、やるなということですか>

「権利を濫用し、義務を果たさなかった場合、
保護観察処分になるということなんです。
法的にみて、そういうことです」

<では現在みられるような国際社会の過剰反応は正当化できるんでしょうか。
アメリカは強硬姿勢をとっています。英仏も同様です。
こうした態度は正当化できるんでしょうか>

「三年にわたる査察にもかかわらず、
私はイランの核開発が平和目的であるということができません。
そのことをIAEAの理事会でも報告しました。
安保理も私の懸念を共有していると思います。
早急に核開発に対し、透明度を高めろと要求しているんです。
過去に信頼を裏切るようなことがあった為、
我々はイランの核開発の将来に懸念を抱いているということです」

<ただ危険なのは、お互いに相手の出方を待っているという所です。
最後には出口がなくなり、武力衝突ということにならないでしょうか。
その可能性はありますね。その可能性を否定はできませんね>

「そうならないよう望んでいます」

<否定はできませんね>

「国をコントロールすることはできませんから」

<しかし方向は見えますね>

「武力行使にメリットはありません」

<それは貴方の意見ですね>

「ストロー外相も武力行使は考えられないと言っています」

<アメリカは否定していません>

「将来の方向を見極めることはできません。
ただ国連安保理が望んでいること、そして世論が望んでいることは、
全員が交渉の席に着くということなんです。
イラン問題の唯一の解決方法は交渉だと思います」

<では、安保理へは何と呼び掛けますか、
落ち着け、辛抱強く待てということですか>

「安保理に対しては、一か月間の査察の継続を承認してくれて有り難う、
私はイランの問題の解決に最大限の努力を払いますというメッセージを伝えます
またイランに対しては、国際社会はもう忍耐の限界に達しているのだから、
事実をもって応えて欲しいと伝えます」

<しかし余りにも早急なのではありませんか。
イランは核ミサイルを振り回している訳ではありません。
反面、北朝鮮は核先制攻撃も示唆していますが、国際社会は沈黙しています。
何故北朝鮮に対しては沈黙して、
核兵器の開発までにはまだ時間の掛かるイランに対しては強硬なんですか>

「良い質問ですね。もし核不拡散条約に加盟していない国に対し、
加盟国と同じような態度を求めた場合ですが」

<この違いをどう説明しますか>

「残念なことに北朝鮮は核兵器の保有を認めています。
ですからイランに対するものとは違った方法になるんです。
北朝鮮から学んだことは、
核兵器の開発まで待ってはならないということなんです。
またもう一つ学んだことは、核の保有国は倫理面で指導権を握りたいのであれば
核兵器を削減し、最終的には廃棄する方向に歩まねばならないということです。
長期的にみて、核保有国と非保有国に分ける見方は
通用しなくなるのではないでしょうか」

<国際社会のイラン問題の取り扱い方に満足していないのではないですか>

「確かにやることはまだたくさんあります。
イランが十分協力していないことに満足はしていません。
また国際社会とイランとの間で
もっと包括的な話し合いがあって然るべきだとも思います」

<しかし国際社会はイランを見下してきたのではないでしょうか>

「その点については判断を控えさせて下さい」

<しかし見下したという言葉は受け入れますか>

「ノーコメントですね。
私としては最終的にアメリカを含めて当事国がイランと同じ席に着いて、
イランと国際社会の間の全ての問題を討議して欲しいと思っているんです。
核開発の問題、安全保障の問題、経済制裁、地域の安全保障、貿易など
全ての問題についての包括的な話し合いです。
包括的な解決方法を見い出す為には、全ての当事国、特にアメリカが
イランと同じ席に着いて討議することが大切なんです。
イランの問題は地域の安全保障の問題でもあります。
イランが最初の一歩を踏み出し、北朝鮮での六者協議と
似たようなものが実現すればいいと思っています。
交渉によってイランに対し、平和目的での核燃料の供給を認めると同時に
イランが兵器目的にはその技術を使用しないという確証を得ることです。
その上でイランにとっても公正と思えるような形で
問題を解決していくべきなんです」

<大変な仕事ですが、疲れませんか。
常に圧力を感じていると思いますが。
偽情報も氾濫していますからね。
2004年アメリカが貴方の再選を阻もうとしたこともありましたね。
世界一の超大国が貴方を貶めようとしたのですから、やはり大変でしょうね>

「大変ですが、公の仕事というのは、そういうものです」

<皆そんなに汚いやり方を使いますか>

「それは分かりませんが、我々の機関はノーベル平和賞を受けました。
つまり世界の大多数の人々がお前達は良い仕事をやっている、
今後も続けてくれと思ってくれているということです。
そのことが大きな力になっています。
仕事を全て終えた時、問題を平和的に解決できたと言えれば、私は大満足です。
殆どの場合、武力で問題は解決できないと私は考えています。
ノーベル平和賞の受賞演説でも述べましたが、武力は新たな問題を生むのです。
古い傷口も塞がりません」

<イラクもその一つですか>

「イラクは今大混乱です。どうにか情況が好転してくれることを望みますが」

<内戦だと思いますか>

「それは分かりません。情況を身近に見ている訳ではありませんからね。
しかし毎日平均少なくとも五十人が死亡しているというんです。毎日ですよ。
ですからここから教訓を学ぶ必要があります。
武力は安定した解決策にはならないんです」

<つまりフセイン政権打倒の為にイラクが支払った代償は高すぎたんでしょうか>

「サダム・フセインは冷血な独裁者でした。それは疑いの余地がありません」

<代償について聞いたんです>

「私は一般市民の犠牲なしにフセイン政権が打倒されれば良かったと思います」

<代償は高すぎたということですね>

「2004年の終わりにお会いした時、中東の情勢は不安定だ、
大惨事が起きるかもしれないと仰いましたね。
イラクで起きていることは、その大惨事なのでしょうか、
それとももっと悪いことが起きるんでしょうか>

「中東は今危険な情況です。
分岐点にさしかかっていると言っていいと思います。
世界について行けるか、それとも後退りして強硬派の言いなりになるのか、
その分岐点に立っているんです。
私達は多数派の穏健勢力と力を合わせるべきなんですが、
この穏健派は今後部座席に座っていて、
強硬派が運転席に座っている状態なんです。
この情況を変えなければなりません。
その為には、政府の統治能力を向上させなければなりません。
更に政治的な自由を保証した民主主義の発展による中東内部からの改革を進め、
そしてパレスチナ紛争などの昔からある問題を解決に導くような
外の世界の努力も必要になってくるでしょう。
イラクやカシミールの問題もその中に含まれます。
イスラム世界の中には大きな不満が渦巻いていると思います。
貧困が人を過激な行動に走らせる訳ではないと思います。
根本には屈辱感があるんです。
屈辱感は政府による人権侵害などの抑圧、そして外国から
自分達が不当に扱われているという不平等感に根付いたものです。
たくさんのことを変えていかなくてはなりません。
その変化は早ければ早い程良いんです」

<それでは、会場からの御質問を受けましょう。
まずレイラ・シティーキさん、どうぞ>

「先程のお話にも出たことなんですが、米英仏がウラン濃縮計画に対し、
イランを罰することは正当化できるんでしょうか」

「罰を与えるかどうかの問題ではないと思います。
誰もイランを濃縮計画に関し、罰する権利はありません。
今すべきことは、イランに対し、信頼の醸成を働きかけていくということです。
罰則ではなく、信頼に欠ける現在のイランの態度が
将来どのようなものになるかに関する懸念の問題なんです。
イランがヨーロッパ、アラブ諸国、国際社会との将来を
どう決定づけていくかは、現在の行動にかかっているんです。
懲罰には反対です。国連安保理は制裁の話しをすべきではないと思います。

(レイラ・シティーキさん)
「しかしその動きは出ていますね」

「外交活動には圧力が必要です。
現在の安全保障制度はそのように機能していますからね。
しかし安保理の最大の役割は、国連憲章七条に明記されていますが、
紛争の平和的な解決なんです。
そして侵略などによって平和が脅かされた場合にのみ
制裁や武力行使が許されるとされています。
それは他に選択肢が残っていない時の最後の手段なんです。
現在のイラン情勢は、そこからは程遠いと思います」

<イランは罰せられるべきでしょうか>

(レイラ・シティーキさん)
「いいえ、そうは思いません」

「安保理はイランの権利を認めているんです。
この権利は核不拡散条約で認められています。
しかし信頼を築くまでは自制するよう訴えているんです。
ウラン濃縮の停止は法的拘束力のない自主的な措置です。
IAEAの理事会でもイランの権利を奪い取るとは言っていません。
IAEAはイランに対し、国際社会への脅威にならないような方法で
権利を行使するよう言っているんです。
車の運転にでも喩えることができると思います。
人はまず車を安全に運転できるということを
証明しなければ路上に出ることはできませんよね。
歩行者を轢き殺してしまうようなドライバーは、
たとえ運転する権利があるとしても、
実際に車を運転させることはできません。
イランに対しても同じことを求めているんです。
まず平和的な方法で権利を行使できることを証明する、
これが求められているんです」

<では次にサラ・ホラサニさんの御質問です>

「制裁以外に平和的な解決の方法はあるでしょうか。
イランの一般国民が政府の政策の犠牲になるようなことが
あってはならないと思います」

「今は制裁の話も出ていないんです。
制裁は避けたいと思っています。
各国の指導者と話をしています。
イランとの交渉を再開させることが最も重要なんです。
制裁は避けるべきです。
制裁という段階にエスカレートさせることは、問題の解決になりません。
皆が交渉のテーブルに着いて、妥協しなければ解決はできないということです。
制裁ということになったら、全員が傷付くんです。
イランは報復するでしょうから、制裁を課した方も傷付きます。
そして制裁の回避に向けて、イランの国民も政府と協力しなければなりません。
しかしこれはイラン国内の問題です。
ですから私には判断できません」

<制裁に反対だということですが、
話し合いは泥沼化しているのではありませんか>

「ここ三年で進展はありました」

<しかし今は戦争の話さえ出ていますね。それが進展ですか>

「誰も戦争は望んでいません。戦争は最悪の解決法なんです。
イランの核開発の実態については、かなり理解を深めたと思っています」

<しかし十分ではありません>

「脅威が明日に迫っているという訳でもないんです。
それは各国の諜報機関も認めています。
ですから交渉の余地はあります。
対話の時間は十分あるんです。
イランと国際社会は対話のチャンスがあるということです。
この機会を活用すべきです」

<質問者に伺いますが、今のイラン情勢が心配ですか>

(サラ・ホラサニさん)
「私はイラン人なので心配しています」

<国際社会は何をすべきと思いますか>

(サラ・ホラサニさん)
「私はイランの大統領の政策に反対です。
アメリカの査察を受け入れるべきだと思います」

<貴方が知る限り、イランは違法なことをしていない筈ですよね>

「しかし明確にする義務があるんです。
18年間水面下で活動してきたんですからね」

<イランは誇り高い国です。イラクとの戦争では百万人の人口を失いました>

「私達はイランという国を尊重しようと思います。
尊重するということはとても大事はことなんです。
相互理解、信頼の醸成には相手を尊重することが何よりです。
互に意見が違っても、尊重し合わなければなりません。
イランのアフマディネジャド大統領の発言は確かに問題です。
これ以上ピッチを上げるようなことをしてはなりません。
今は頭を冷やして、責任ある行動を採って欲しいと思います。
中東の情勢は既に緊張しているんです。
色々な問題で混乱しています。
ここで新たな危機を作り上げることは、火に油を注ぐようなものでしょう」

<ドゥア・ベンヒダさんの質問です>

「イランが何故イスラエルよりも危険視されなければならないんでしょうか。
イスラエルは核兵器を保有していますが、
イランは原子力を開発しようとしているだけです」

「それは良い質問だと思います。

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