「ウズベキスタン」民族・歴史・国家(高橋巌根)創土社
ソ連崩壊は、新たにイスラームという主役を国際社会に登場させた。
しかし、中央アジア諸国を単純にイスラーム圏とすることは疑問だ。
中央アジアにおけるソ連支配は70年余に及び、
ソ連時代との連続性という視点が軽視されていると著者は述べる。
ソ連・カザフではIMF勧告に基く、ショック療法が行われたが、
ウズベクでは実施しなかった。その為、旧体制が温存された。
農業分野では、コルホーズが名前を変えて存続
企業の民営化は、株式のごく一部でも非国有となれば、非国有化が進展とされ、
実質は緩やかなペースで進展
2002年5月以降、メディアに対する公的検閲組織は廃止された。
しかし、実質的には内々に警告を与える形が一般化
サマルカンド、ブハラという文化的遺産を多く有している
ペルシャ語(タジク語)とチュルク系のウズベク語とのバイリンガル
ペルシャ系文化とチュルク系文化との共存
タジクとウズベク地域の特徴
ロシア革命後の、国家先行型の上からの民族国家形成
旧ソ連圏では、平等化という建前がそれなりに実施され、ソ連の西部の富が、
遅れた中央アジアにもたらされた。
(1966年タシケントに中央アジア初の地下鉄開通)
「コルホーズにおいてもイスラームにおいても、親族関係の維持という点が
重大な要素となっていた」
1930年代のスターリンによる大粛清の結果、都市インテリ層が抹殺され、
党幹部の社会的基盤を都市から農村へと移行する。
「コルホーズ内での親族グループの形成とあいまって、
党幹部と農村の親族が強い社会的関係によって結ばれる」
・フェルガナ・クラン
・サマルカンド・クラン
・タシケント・クラン
三大クランの勢力争い
クラン最上層部においてはお互いに婚姻関係によって結ばれていた。
ウズベキスタンはソ連の分業体制内では、綿花生産に特化していた
ソ連全体の綿花生産の六割(世界第三位の米に匹敵する生産量)
綿花の作付面積は農耕地の七割以上(農耕地は国土面積の一割)
ソ連中央による過酷な収奪への対抗策として大掛かりで組織的な汚職
「綿花事件」1983年~
党中央委員会の九割を更迭、数千人に処罰
<イスラーム勢力>
・アフガニスタンへの攻撃後、過激派は勢力を失う
・イスラーム解放党は穏健派に転じ、平和手的手段での改革に転換
都市知識人層を中心に数万人規模の党員
ビラ「夜の書」を夜間に投函
<政府のイスラーム対策>
・イデオロギー対策としては、地域的伝統(スーフィズム等)を強調
イスラーム以前の古代宗教(特にゾロアスター教)を
ティムールを国家的英雄として国民統合のシンボル化
・行政的対策としては、ムッラー(宗教指導者)として活動するには、
国家が定める特定の場所での研修修了証書が必要
マハッラ(街区共同体)の長ライスには、定期的に地区役所との連絡義務
巡礼にも人物照会
<親族構造によって細分化された内部>と
<社会主義的である非民族主義的な外部>との
両者の接点が、党指導部
カリモフは赤貧家庭に生まれ、コムソモール活動家となり、工科大学に進学、
ロシア人女性と結婚(後離婚)、農業機械工場の技術技師として就職、
経済非効率を痛感し、経済大学の通信課程へ。ゴスプラン・メンバーに抜擢。
クラン的背景を持たないことをゴルバチョフが評価
州第一書記に抜擢、綿花生産を33万トンから55万トンに増加
91年大統領選挙に勝利、民族系詩人を破る
共産党を複数政党制の形式を整える為に国民民主党と祖国復興党に二分
92年、独自通貨スムを発行
「ソビエト的な側面とローカリズムに基づく側面をうまく使い分け両立」
「ナショナリストというよりも、現実主義者であり政治的なプラグマティスト
ないし実務家、あるいはテクノクラート」
「旧ソ連的な体制はカリモフ政権によって再構築され、継承されている」
2004年春ソロス財団支部を閉鎖
ウズベク軍は国民皆兵、しかし都市部の若者は実質的に兵役を免除
軍隊への入隊は有望な就職先
交通警官に採用されるには軍経験が必須
(交通警官は罰金を徴収する利得)
「縮小された軍隊は、経済的には恵まれない農村のウズベクたちによって
占領され、その内部はさらに地域主義の分断を抱えている」
「60の韓国系プロテスタント、五つのカトリック教会、四つのエヴァンゲリスト
教会が登録されている」
「教団は改宗する時、50ドルをくれ、後でもっとあげると言いました」
「もっと稼ぐ為には他の若者を導かなければなりません」
当局はこの動きに警戒と警告
・汎チュルク主義
・「隠れタジク」
「ウズベキスタンは、チュルク系低住民の土地という意味で典型的にウズベク的
であるフェルガナに片足を置く一方で、サマルカンドやブハラの混交的な
文化にももう片方の足を下ろす。これはサマルカンド・クランと
フェルガナ・クランの交替によって続いてきた政治構造とも対応」
「アンディジャン事件」
「主要な通りに一定間隔ごとに警官が立ち、彼らが常に街の動静に
目を光らせているというのが、ウズベキスタンの都市でお馴染みの風景」
ドル・スム交換レートの高騰による、ドルを持つ者と持たざる者との
経済格差の拡大
GDP成長率3.1%に対し、インフレ率は13.1%
経済的な不満が醸成・蓄積されている
<政治支配体制>
旧共産党ノーメンクラツーラという要素と、
(形式的な複数政党制という政治的演出)
地元部族勢力のバランスにも配慮
<イデオロギー>
イスラーム穏健派は、上から監視・コントロールし、
ティムール礼賛を国民統合の象徴化
<経済政策>
欧米露、多方面から援助をしたたかに受け取ってきた。
有力な対立政治勢力の存在があるとも見えない。
経済エリート間の対立が顕在化しているとも見えない
経済格差の拡大による、低所得層の不満が醸成・拡大しているとは思う
しかし、その不満が有力な反政府勢力と有効に結びついているとは見えない。
<参照>
ウズベキスタン・キルギス (BBC)
http://jp.youtube.com/watch?v=PrZbkYJQWNM
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント