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2005.03.25

「因習を破るパキスタン女性」米ABC NIGHTLINE

Mukhtar Mai (16:17)
http://www.veoh.com/videos/v11782504WbeZqmgF

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「因習を破るパキスタン女性」米ABC NIGHTLINE
NHKBS(2005.3.24(木)放映)

パキスタン、ハンジャプ州のミワラ村は、
首都イスラマバードから560キロほど離れた所にあります。
電気も水道もなく、近代法にも全く染まっていない地域です。

 ここでは部族が全てを取り仕切り、多くの問題は、
パンシャットという部族代表の男性から成る非公式の評議会で決着がつきます。
 女性は所有物とみなされ、時には家族の名誉を守る為の復讐の手段として
使われます。
 三年前、その復讐が起きました。
 部族間の争いを収める為、女性が性的集団暴行を受けたのです。
 よくこの地方であることで、後に何も問題が起きないのが普通です。
しかし、ムクタル・マイさんの場合、初めから対応が違いました。
そして劇的展開の末、ついにパキスタン最高裁で審理されることとなりました。

 ことの発端はムクタルさんの14歳の弟が、より有力なマストイ族の少女と
性的関係を持ったと非難を受けたことです。
 マストイ族の少女の家族にとっては、余りある侮辱でした。
弟は事実を否定しています。
間に入ったのが部族代表の評議会、
マストイ族の名誉の為に姉のムクタルさんが使われることとなりました。
ムクタルさんは、歩いて空き地までやって来て、
しきたりに則り、弟を許して欲しいと請いました。
「評議会まで歩いて行く途中、何を思いましたか」
「評議会のリーダーが、頭に手をかざして、『お前は私の娘みたいだ。
 許してやろう』と言ってくれるのがしきたりだと思っていました」
「でも私が到着すると、許しを請うチャンスも与えられず、四人の男性に虐待を
 受けたんです。250人もの男性の前で虐待されました」
「止めさせる為に何と言ったんですか」
「皆さんは私の兄弟のようなものですから、こんなことは止めて下さいと訴え
 ました。コーランと預言者モハメドとアラーの神の為に、私を傷付けないで
 下さいと訴えましたが、聞いてくれませんでした」
 彼女は全ての村人の目にさらされ、家まで裸で帰らされました。
「普通なら自殺するというのですか」「そうです」
「理由はどうであれ、自分の受けた辱めの為にですか」

「何が不名誉なことかというと、犯罪を犯したり、誰かを暴行することでは
 なくて、暴行を受けることが不名誉なんです。
 それは本人だけではなくて、家族全体の不名誉となるんです。
 名誉を回復する方法は、本人が自殺することであり、パキスタンの地方では
 それが当然とされているんです」

 地元のイスラム指導者が、この暴行を耳にしなければ、実際にそうなって
いたかもしれません。
「マストイ族が貧しい一族に復讐したと聞きました。
 私はモスクで礼拝中にそのことを非難しました」
「この辺りでは復讐は異例ではないでしょうか。
 この一件で特に何が問題だと思うのでしょう」
「これまでのケースと違っていたのは、残忍さがあったという点です。
 あんなことはこれまで起きなかったし、あんな復讐の仕方は予想して
 いませんでした」
 イスラム指導者は村人に警察に届けるよう説得しました。
 
 集団性的暴行の報道が広まり、全世界の女性がムクタルさん支持に立ち上がり
ました。
 そんな中、当惑したムシャラフ大統領は、直ちに暴行した男達を逮捕し、
裁判にかけました。
 検察は、性的暴行が立証される場合は、極稀だと主張、厳罰が下されました。
この犯罪では最高刑が適用されます。この場合は死刑です。

 ムクタルさんは、更に慣例を破り、次の行動に出ました。
法廷で男達の暴行について証言したのです。
ムクタルさんは、不名誉なのは、暴行を受けた方ではなく、暴行した方だと
犯人達の前で、はっきりと述べ、自らの嫌疑を晴らしました。
これは彼女個人だけでなく、パキスタン女性全てにとって極めて大きな
前進でした。
 彼女は体制そのものに真っ向から挑んだのです。
本来ならば自殺し、恥を受け入れ、姿を消す筈でした。
彼女はその代わり、それに真っ向から挑み、最終的には犯人達を刑務所に
送ったんです。
従来の考え方を覆したとまではいかなくても、少なくとも社会に激震を
与えたのです。

「判決で名誉が挽回できましたか」
「いいえ。でも名誉が回復されなくても私は満足していますし、
 同じことが繰り返されるのを防ぐことができるんです」


 ムクタル・マイさんは、法廷以外の場でも闘いを始めました。

 その後、有罪となった六人の男は上訴し、ムシャラフ大統領はマストイ族の
別のメンバーからの報復を恐れ、ムクタルさんに二十四時間の護衛を付けるよう
指示しました。
 政府はムクタルさんに8300ドル相当の見舞金を出しました。
 現地の平均的年収の二十倍です。
 このお金で、ムクタルさんは、どこか遠くに逃れ、新しい生活を始めることも
できた筈です。
 しかし、彼女は思いもよらぬかたちで、このお金を使ったのです。

 ムクタルさんは、村を立ち去らず、代わりに、このお金で村で初めての学校を
作りました。
 子供達、特に女の子が、自分には叶わなかった教育を受けられるようにとの
想いからです。
「このような事件があった時、教育が助けになります。
 教育がないと、自分の権利を主張することもできません。
 この辺りの女性は、不当な扱いを訴えて出るようになりました」

 高等裁判所は、判決を変えました。
容疑者の一人は当初死刑を宣告されましたが、その後終身刑に減刑されました。
 三年前の初期捜査で信頼し得る証拠に欠けていることが判断の理由でした。

「250人もの人の前で暴行を受けたのに、裁判所が目撃者がいないと言って
 のけるのは驚きで、恥としか言いようがありません」
(女性人権活動家S・ボカーリ女史)

 ムクタル・マイさんは、イスラム教の範囲内での改革を求める女性の象徴と
なりました。
 彼女が敬虔なイスラム教徒であるという点も、あの社会で信頼を受ける理由
でしょう。
「容疑者が減刑されたのは、彼女にとってだけではなく、パキスタン全体に
 とっても大変な打撃と言えるでしょう」(NYタイムズ・N・クリストフ氏)

「容疑者が釈放されていて、私や私の家族は大きな危険に晒されています。
 何としても最高裁に訴え、最後まで闘います」

 上級審の決定に、パキスタンの世論は割れました。
 ムクタル・マイさんがやっていることを脅威と感じているパキスタン人は
たくさんいます。
 彼女が屈辱を受ける、危険に晒される、容疑者が釈放される、
これを喜んでいる人達がいるのです。
 
 その一方で、これをひどいことだと感ずる人も多いのです。

 まさに全く違う世界観がぶつかっているのです。

 先週、最高裁は本件の審理を行うと決定。

 同じような状況で自殺してしまう女性が多い中、彼女は大きな社会運動の
先頭に立つに至りました。
 これから社会を変えるには、何年も掛かるでしょうが、これがパキスタンの
都市部以外、そして他の国の改善にもつながって欲しいですね。

 先週金曜、暴行した男達は再逮捕されました。
ムクタルさんが首相と会い、命の危険を感じると訴えたからです。


「パキスタンの女性にとって差別的な法律や政策にも挑んだ」
(人権団体フリーダム・ハウス女性の権利担当サミーナ・ナジール女史)

「名誉というものが、パキスタンの農村部や部族地域の村では、
 特に重んじられます。
 自分達は名誉を守る為にやったと主張している人達に対し、
 実は彼らのとった行動こそが不名誉なものであると示した訳です。
 何が名誉となるかという考え方を一転させました」
(アメリカン大学教授アクバル・アーメド氏)

「アーメドさんは、部族が支配する地域で行政官を務めた経験をお持ちですが、
 そういった地域では、言わば二つの司法制度が並存している訳ですね。
 女性に対する暴力のようなケースは、どのような形で決着がつくのでしょう」

「とても複雑な為にムクタル・マイさんが動きが取れなくなる可能性もあるん
 です。
 四つのシステムが同居しています。
 一つはイスラムの法。
 二つ目が国の刑法。これは植民地時代のイギリスの法律に由来するものです。
 三つ目は、州の法。
 四つ目は、部族の法。
 このような中で、例えば彼女が部族評議会に訴えを起したとしても、
 容疑者は裁判所にこれを持ち込むことができるのです。
 やり手の弁護士を雇い、時間を稼ぐこともできます。
 パキスタンの庶民に待つ時間やゆとりはありませんから、無力となって
 しまいます」(アクバル・アーメド氏)

「地方では司法制度を利用する手段がありませんし、中央政府も地方にまで手が
 届かないからです」(サミーナ・ナジール女史)

「パキスタンのムシャラフ大統領は、恥辱の報復として、殺すとか、レイプする
 といった行為を取り締まり、政教分離に基づく司法制度を実施する政治的権限
 を持っているのでしょうか」

「権限は持っています。このような事件を厳しく扱うことは充分できます。
 今回の事件を教訓として、虐待を考えるような者達がいなくなるように
 もっていくべきです」(アクバル・アーメド氏)

「こうしたケースはたくさんあるのですが、残念ながらニュースとして取り上げ
 られることすらありません。今回のケースは次のような意味で重要なんです。
 司法制度を改革するだけでなく、パキスタンの女性の教育レベルを引き上げ、
 字が読めない人をなくし、地方の女性にも司法による公正さを与えるべきだ
 という認識を生み出すことに繋がるからです」(サミーナ・ナジール女史)

「ムクタル・マイさんが権利を主張して立ち上がったという事実は、
 パキスタンの社会の一部に脅威を与えるのでしょうか」

「ええ。封建社会の権力者側だけではなく、階級の高い人達もそう受け止める
 でしょう。パキスタンにはまだ昔からの階級制度が残っています」
(アクバル・アーメド氏)

「こうした女性を保護する為の政府からの支援態勢はない。
 政府によるサポート体制を整備する必要があるのです」
(サミーナ・ナジール女史)


 <私の感想>
 彼女には本当に心から感銘を受けました。
 21世紀現代に於いて、『名誉の殺人』がいまだに公然と行われていることは、
全人類にとっての恥辱であるとも思います。
何としても、女性の地位向上へと向かって欲しいです。
現代イスラムにとって、重大な課題であることは動かし難い現実だと思います。

 しかし、現情勢下では、アメリカの一連の『中東民主化』の動きとも連動して
いるとも解釈できます。
・<彼女の感動的な行いそのもの>と
・<米メディア・米政権が政治的に利用すること>
 この二つは、きちんと区別しなければなりません。
しかし、たとえ、そうであっても、イスラム世界に於ける女性の地位向上に
対しては、私は、全面的に支持します。


<参照>
パキスタンでのレイプに対する戦い
http://ima-ikiteiruhushigi.cocolog-nifty.com/gendaisekai/2007/03/post_cb82.html

記録映画になったマーイー
http://www.janjan.jp/world/0610/0610162846/1.php

パキスタン「レイプ取締法」改正に暗雲 イスラム保守派抵抗
http://www.sankei.co.jp/news/060917/kok000.htm

レイプの後始末で望まない結婚、そして自殺 -14歳少女の悲劇(Radikal紙)
http://www.el.tufs.ac.jp/prmeis/newsdata/News2006921_3552.html

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