今月の月刊雑誌のチェチェン関連記事
今月の雑誌を、左から右まで各誌を読んでみた。
意外とその内容は似通っていて、余り違いを感じ取れないくらいだった。
<左から右までの各誌の最大公約数>は、
・チェチェンの悲惨な歴史に同情を示すこと。
・チェチェンでのロシア軍の非人道的な行為を非難すること。
・独立派の中の正真証明のテロリストは、絶対に許せないこと。
(イスラム原理主義過激派が存在していること)
・独立派の中の穏健派=マスハードフ大統領派とは対話すべきこと。
およそこれらの諸点は共有しているように私には思われる。
<「世界」11月号:岩波書店>
・『ロシアの「9・11」北オセチア学校占拠事件とプーチンの国家総動員
体制』池上薫
「おそらくジャーナリズムは、自主的にプーチンの呼びかけに応えようと
しているのではないか。」
「マスコミも、その総動員体制に自発的に加わってきているのであり」
「チェチェンの国境管理問題」「グルジアからチェチェンにはロシア中央政
府による国境管理ができていないので関税は掛からない。チェチェンから
ロシアは国内扱いなのでそもそも関税がない。つまり密輸の温床となる」
・『ベスラン事件の衝撃とロシア・チェチェンの今後』
インタビュー・アフメド・ザカーエフ:聞き手:常岡浩介
英国亡命中のチェチェン独立派スポークスマン:ザカーエフ文化相への
インタビュー。
「我々はバサーエフのやり方を採用も支持もしない。我々チェチェン政府は
ロシア軍との戦いでは、正規の軍隊が一定の基準の中で国際法を守って
戦うべきだと考えている。一般市民に危害を加えることは、テロ行為と
見なして採用しない。」
「マスハードフ大統領はチェチェン共和国テロリズムセンターに、この事件
の全容解明を命じた。」
<「論座」11月号:朝日新聞社>
・『学校占拠事件の背景にあるチェチェンの怨念』徳永晴美
チェチェンの内紛:チェチェンの石油利権を巡る南北テイプ(部族)の
対立・抗争があったこと
・『解説:チェチェンとは何か:カフカスはロシアの火薬庫』編集部
「白人種をコーカソイドと呼ぶように、チェチェン人らカフカス先住民は
白人」
・『コーカサスとアルカイダの影』外岡秀俊
2001年2月、アフガニスタンのタリバン政権のオマル師は、
「カブールにチェチェンの大使館を置く」と発言。
<「軍事研究」11月号>稲岡硬一
・『ロシアとチェチェン、200年の怨念』
アンナ・ポリトコフスカヤの「チェチェン やめられない戦争」を引用しな
がら、「チェチェンの連邦軍兵士の腐敗」を指摘している。
「チェチェン受難の歴史」を論じ、「チェチェンの権力闘争と内戦の危機」
を述べ、「泥沼の対テロ戦争」で結んでいる。
とてもオーソドックスな展開になっていると思います。
<「前衛」11月号:日本共産党>田川実
・『ロシアのテロ事件とチェチェン問題』
「実際に少なくない住民が投票所に足を運んだことは否定できません。
新憲法制定後、ロシア国民としての住民登録にも多くが参加しました。
登録なしにはさまざまな行政サービスも受けられません。長年の戦い、
混乱に疲れ、それ以外に道はないと思った人々が、プーチン政権のやり方
をとりあえず黙認したようにも見えます。」
ロシア政府のアスラハノフ大統領顧問は、『軍、治安機関の犯罪、腐敗は
秘密でもなんでもない。人権団体の指摘は具体的な事例も挙げている。』
モスクワの反テロ集会に参加したチェチェン人男性は、
『軍に今出ていってほしいとは思わないが、彼らが武装勢力と同じくらい
ひどいのは皆知っている。将校はガソリンや武器をヤミ販売している。』
「全国平均の何倍もの失業率、長い紛争で学校にも通えず成人した若者も
多い。独立派武装勢力、あるいは共和国当局者の私兵となるのが生きる
術となっている側面も報告されている」
ロシア戦略研究センターのピオントフスキー氏は、
『マスハドフはバサエフと違い、テロへの関与を否定し、対話・交渉の用意
があると繰り返し述べている。ならば彼に『君が共和国の大統領なら、
学校や地下鉄の行為は全くの犯罪、止めろ、逮捕するとの声明を出せ』と
迫るのです。』
<「潮」11月号>下斗米伸夫
・『北オセチア事件はなぜ起きたか』
第一次チェチェン戦争後、「マスハドフ大統領は無能で、アルカイダなどの
イスラム急進派が入り込み、治外法権にしていた。」
「妥協を拒否するプーチン政権がこの間進めてきたのは、急進派を切り離し
穏健独立派を取り込んで、チェチェン人による統治をロシアのもとで進め
る政策だった。」
「この間主導的な武装勢力は、カフカズ地域一体を不安定化する対抗策で
臨んだ」
カディーロフ大統領が爆殺され、プーチンの政策は失敗。
「もはやチェチェン問題ですらないことは確かだ。」
「97年に選挙で選ばれたマスハドフ大統領と話しあい、政治解決せよという
が、もはや彼にもまたほとんど解決の力もない。」
「人質を若干取り返したアウシェフ・元イングーシ大統領や、マスハドフ
大統領に仲介を依頼したというザソホフ・北オセチア大統領のように、
対話を行うことで急進化する集団を対話に引き戻す試みがあったことは
重要だ。テロに対話は通用しないが、全て政治は地方のものだ。」
<「歴史群像」10月号:学研>
・『チェチェン紛争』
1834年、シャミーリが山岳民族を束ね、ロシア軍相手に善戦。イスラム教
の教義を根拠に過激な「聖戦」の遂行を叫ぶ。このやり方ではいつまで
たっても平和な生活を取り戻せないのではないかという疑念が生じてきた
1840年代の終わり頃から50年代の始めにかけて、北部コーカサスの各地で
次々と反シャミーリの民衆運動が沸き起こると、シャミーリの威信は瞬く
間に低下して、彼の持つ軍事力も急激に弱体化していった。
1852年、ロシアは、チェチェン東部の大部分を支配下に置いたが、民衆の
反発はほとんど見られなかった。戦いを通じ山岳民族の心情を理解した
ロシアは、部族社会の慣習法(アダート)を尊重した間接統治を行うと
表明したからである。
1942年、コーカサス北部の各地で計2万人近い赤軍軍人と共産党員を、
民族派の武装勢力が殺害した。
他方、3万人のチェチェン人義勇兵は、対独の戦いに身を投じていた。
「マスハードフは、『ダゲスタンに侵攻したバサーエフの部隊はチェチェン
政府とは一切関係ない』との声明を発表したが、これは逆にマスハードフ
の持つ政治的影響力の弱さを内外に露呈する結果となった。」
「カディーロフ師は、マスハードフと面談し、バサーエフら野戦指揮官に
対して断固とした制裁を加えるべきだと勧めたが、マスハードフは、
『彼らの力を弱めれば、次のロシアとの戦争で勝てなくなるかもしれない』
と答え、優柔不断な態度をとり続けた。」
<「正論」11月号:産経新聞社>斎藤勉
・『「領土」、「チェチェン」に戦略はあるのか』
「ロシアの「チェチェン突撃レポーター」エレーナ・マシュークが、三年前
「大洋の中の島々」と題する番組を作った。北方領土周辺海域に暗躍する
ロシアのカニ密輸船の実態を暴いたドキュメンタリーだ。」
「根室・花咲港。その埠頭にロシアの密輸船から大量のカニが水揚げされた
日露関係者で賑わう闇のカニ・ビジネスの現場に」、FSBが指名手配して
いるチェチェン・テロリスト幹部が映っていた。
チェチェン・マフィアと組んで、有力な資金源にしていたのだ。
今月の雑誌を、左から右まで各誌を読んでみた。
意外とその内容は似通っていて、余り違いを感じ取れないくらいだった。
<左から右までの各誌の最大公約数>は、
・チェチェンの悲惨な歴史に同情を示すこと。
・チェチェンでのロシア軍の非人道的な行為を非難すること。
・独立派の中の正真証明のテロリストは、絶対に許せないこと。
(イスラム原理主義過激派が存在していること)
・独立派の中の穏健派=マスハードフ大統領派とは対話すべきこと。
およそこれらの諸点は共有しているように私には思われる。
つまり、日本の世論は、以上の諸点では共通しているのではないか、と
思われる。
もちろん、最大公約数としてであって、全員が同じ意見だという訳では
決してない。
しかし、問題は、日本の世論がある程度固まっているからといって、
それがロシアの政策を変える訳でもないということだ。
プーチンはロシア国民に選ばれている訳であって、日本国民に選ばれている
訳ではないからだ。
しかも、現在のプーチンは、ロシア国民に高支持率で支持されている。
ロシア国民に高支持率で支持されている限り、現在のチェチェン政策を変える
ことはまずあり得ないと思われる。
つまり、マスハードフらと対話する必要性を認めないだろう。
既存の路線、つまり、ロシア軍の軍事的支配下で、チェチェン人の統治機構を
徐々に広げていくという政策だ。
中国のチベットや新疆ウイグル自治区での漢民族化政策、イスラエルの入植地
政策と似て、既成事実化していく訳だ。
カスピ海の石油については、カザフスタンから、北ルートで輸送する為、
チェチェンは、石油輸送ルートという点では、もはや重要ではなくなっている。
バクーからの石油ルートは、その重要性が相対的に低下している。
しかも、チェチェン迂回ルートも完成している。
ロシアにとって、石油輸送戦略という<経済的>には、チェチェンの重要度は
低下している。
しかし、隣国グルジアで今年、親米政権が成立した。
その為、グルジアと接するチェチェンは、<政治的><軍事的>には、その重要
度を増している。
ロシアにとっては、グルジアとの関係では、チェチェンを失う訳にはいかない
だろう。
プーチンにとっては、チェチェン問題は、
・自らの支持率を上げてくれる格好の素材
・国内矛盾から国民の関心を外に逸らす
・グルジアに介入する口実にチェチェン問題を政治的に利用する
純粋に、民族独立という美しい物語であったはずだったのに、、、
いつのまにか、
・国際テロリズムの温床
・ロシアの国内・国外政策の政争の具
チェチェン人が好むと好まざるとにかかわらず、チェチェン問題は、
もはや、チェチェン一国の問題ではなくなってしまったかのようだ。
こと、ここに至って、マスハードフが、チェチェン国民に選ばれた正統な
大統領だと言うのなら、チェチェン国民をどう導くべきだろうか?
いや、チェチェン国民が、まだマスハードフを支持しているのだろうか?
もはやその数は、相当少なくなっているのではないか?
もう長年に亘る凄惨な戦争下で、一般市民達はもうこれ以上耐えられない
だろう。
独立という民族的悲願は失っていないのだとしても、日々の生活がある。
武装勢力内の内紛、特に、イスラム原理主義過激派については、毛嫌いしている
ようだ。
このままでは文字通り民族絶滅の淵に立っている。
とにかく停戦し、戦闘を止めること、一般市民の最も望んでいることは、
これに尽きるのではないか。
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