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2005.10.29

「アフガニスタン”民主化”選挙の一か月」NHKBS

 立候補者の演説会が行われるモスクには溢れるほどの聴衆が集まりました。

「国の為に戦った者に投票すべきだ」(元軍閥)
「軍閥がこれまで一体何をしたのか問い掛けたい」(技術者)
「社会の半分は私達女性です。今こそ男性に肩を並べて立ち上がる時です」
(主婦)

 これまで抑圧されてきた民衆が、
漸く自由な意思で投票することができる直接選挙です。

しかし、有権者の意思決定にイスラム社会特有の
ショーラと呼ばれる長老の寄り合いが大きな影響力を持っていました。
ショーラの決定には誰もが従う、それがこれまでの慣わしでした。

北部バルフ州の州都マザリシャリフ。
バルフ州では、下院11議席、州議会19議席。
女性を含む237人の候補者が争います。

バルフ州の農村地帯ショルガラ地区。人口十五万。
読み書きができる人は一割程です。
普段は静かなこの地域も選挙カーが走り回りました。
「選挙を知っていますか」
「こんな土地の農民が知る訳ないだろ」
「知らないのか、駄目じゃないか」
「生活がよくなることを望んでいる」
「これまで作った作物を自分で食べたことがなかった。
 戦争中は全て奪われていたんだ」

 モスクの屋上で一人の男性が叫び始めました。
「みんな集まれ、もうすぐ始まるぞ」
州都からやって来て、選挙演説を行いました。
選挙カーの前に、バイクに二人乗りして、プラカードを掲げる三台が先導。
武装したボディガードの先導でやって来たのは、サイード・ジャウィード候補。
内戦時代、この地域の実権を握っていた軍閥の司令官でした。
暫定政権で運輸大臣を任された程の実力者です。
会場に着くと、まず村の長老一人一人に握手を求めました。
武力によって力を誇示してきた軍閥も村の長老達の許可なく、
選挙演説を行うことはできません。
「我々がソ連を倒し、冷戦を終わらせたのだ。
 第三次世界大戦を阻止した世界の英雄なのだ。
 我々イスラム戦士に投票すべきだ。
 国会はイスラム戦士のものでなければならない」

地区のイスラム最高指導者アブドゥル・マナン師は、
選挙の当落を左右する程大きな影響力を持っています。
ショーラの主催者です。
ショーラは人々の生活に起こる問題全てをイスラムの教えに基づいて解決します。
土地を巡っての争いや財産の相続問題、
強盗や殺人などの犯罪を裁くこともあります。
経済や政治まで全てが、このショーラを拠り所としています。
ショーラには村人からさまざまな質問が寄せられます。
「女性に教育を受けさせていいのかという質問がきている」
「学校に行っては駄目なんですか」
「女性が指導者になってはいけないということだ」
「なぜですか」
「女性が人前に出るようになるからだ」

「立候補者はショーラの代弁者であるべきだ。
 我々の命令に従わなければならないのだ。
 イスラムの教えが全てだ。
 イスラムの教えに従わなければ、たとえ大統領でも否定する」

ショルガラ地区には、こうしたショーラが村や宗派ごとに約120あります。
それらを取りまとめ、地区全体を代表するのが、
イスラム指導者マナン師の率いるショーラです。
ショーラはこれまで、いわば村議会や地方議会の役割を果たしてきました。


軍閥出身の勢力に対抗する為、出馬した候補者がいました。
同じショルガラ地区出身のオラン・ハイダル・アフガル候補。
天然ガスや石油などのエネルギー開発の技術者です。
内戦時代から軍閥が資源を独占し、私腹を肥やしてきたと主張しています。
「私達の血を吸って贅沢をしている奴等を許す訳にはいかない。
 彼らは私達の追及から逃れ、国会に行こうとしている。
 もし私が当選したら必ず捕まえてやる。
 20年もの苦しい戦いを経て、我々が唯一手にした大切な一票なのだ」

 アフガル候補は遊説の途中、村の墓地を訪れました。
この地域はいつも戦乱の中にありました。
アフガル候補も二人の従兄弟を失いました。
自らもソ連軍に勾留され、十年近く牢獄に繋がれました。
今回立候補したのは、武力による支配を終わらせ、
今度こそ民衆の手に自由と平和を取り戻さなければと考えたからです。
「国が生まれ変わるだろうという我々の希望は、失望に変わろうとしています。
 街をロケット弾で破壊し、罪のない国民を悲惨な目に遭わせた連中が
 また政権に参加しているからです。もし更に彼らのような軍閥が国会議員に
 なったら、その国会はどうなってしまうのか。
 国民が長く待ち望んでいた民衆の為の国会になる筈はありません」

アフガル候補には、後ろ盾となる団体も、十分な資金もありません。
研究所の仲間や周囲の友人から少しずつ支持を広げていくしかありません。


 アフガニスタンでは、これまで女性の権利は大きく制限されてきました。
特に農村部では、自由に外出することや、自分の意見を率直に表現することは
認められず、女性が表舞台に立つことはありませんでした。
今回の選挙では全国で582人の女性が出馬しました。

州議会選挙に立候補した主婦ルキア・アーレミ候補
夫の助けを借りて選挙運動を行っています。
「お前のせいで俺までいろいろ言われるよ」
「だから一人で行きたいと言ったのよ」
「一人で戦うつもりか」
アーレミさんは13歳の時に、隣国イランに移住。
去年漸く帰国しました。
イスラムで認められている筈の女性の権利が、
この国ではいまだに大きく制限されている。
その状況を変えたいと立候補を決意しました。
しかしポスターを受け取るのは男性ばかり。
女性は誰一人受け取ってくれません。
「私を怖がっているわ」
「ここの女性は知らない人とは話さないものなの。
 女性達に演説したくとも交渉してくれる人がいないと何もできないの。
 協力してくれる村人を探すしかないわ」
女性のアーレミさんが直接村の長老に交渉することは許されていません。
夫のカスムさんの役目です。
「家にいる女性達に直接話すことはできないんだ」

バルク州の議会選挙では女性の為に五つの議席が確保されています。
そこに19人の女性候補が立っています。
当選が有力視されているのは、州都のマザリシャリフで活躍し、
知名度の高い教師や弁護士などです。

「ここの習慣に従ってやるしかないんです」
今回の選挙活動を通じて、男性中心社会の現実を改めて強く感じています。


イスラム教シーア派のショーラが
ジャウィード候補を全面的に支援することに決めたのです。
この地区の人口の三分の一はシーア派。
シーア派の宗教指導者は、
「ジャウィードは何をしてくれたのか。
 20年以上続いた戦争を終わらせてくれたのだ。
 治安を回復させ秩序をもたらした。
 武装解除も受け入れた。
 さまざまな分野で貢献したのだ」
集会の後、村人に昼食が振る舞われました。
四百人分の食事の費用は全てジャウィード候補がまかないました。

「金持ちの候補者はいろいろ配っているらしい。
 携帯電話、豪華なマント、現金、そして車までね」

選挙戦が進むにつれ、ジャウィード候補の選挙事務所を訪れる
村々のショーラの長老が増えてきました。
彼らはさまざまな要求を携えてやって来ます。
「モスクの屋根を直すことと井戸を掘ることだ」

ショーラと軍閥の緊密な関係は内戦時代から続いています。
「軍閥の司令官は何でも勝手にやっていた訳ではない。
 ショーラに従っていたんだ。
 司令官は結局長老達の息子のようなものなんだ。
 ソ連と戦った時からショーラと司令官はくっ付いているんだよ。
 今も何人も候補者がいるだろ。あの時と同じだ。今も繋がっているんだ」

 
 選挙戦が中盤に差し掛かった頃、
全国各地で立候補者達に対する妨害事件が頻発しました。

 アフガル候補は、
「嫌なうわさを聞いた。
 私が選管の立候補者リストから外されたというんだ。
 信じてくれ、そんなことは誰も勝手にはできないんだ」
「俺は皆に知らせたよ。これは全て敵のプロパガンダだと」
アフガル候補はシーア派のショーラから圧力を受けていました。
「発砲事件があったらしいな」
「けが人が出たらしいぞ」

「シーア派のショーラは私に立候補を取り消すよう何度も要求してきました。
 我々を排除し、ショーラに関係のある人間を国会に送り込みたいのです。
 しかし、人々の権利を守ろうとする我々こそ国会に行くべきなのです」

夜八時アーレミさんはある村の長老に呼び出されました。
長老の用件は現金の要求でした。
女性を三百人呼んで演説をさせる代わりに大金を支払うよう求めたのです。
アーレミさんに用意できる額ではありませんでした。

マジャリシャリフ近郊の村が女性を前にした演説会を許可。
村の長老が女性二百人をモスクに集めてくれました。
この村はタリバン時代に家々を全て取り壊され、
ほとんどの村人が難民となっていました。
村の生活基盤は破壊されたままです。
「飲み水がない、電気もない、何もないんだ」
「俺達は男女合わせて五百票持っている。
 この票をやってもいいが、水の問題を理解してほしい」
長老達はアーレミさんに投票する条件として
村の生活を必ず改善するよう夫のカスムさんに迫りました。
「もし約束を守らなかったらどうするんだ」
「夫である私が責任を持ちます」
「もし守らなかったらお前の首を締め上げてやる」

「私達女性の権利と自由はイスラムでも認められています」
演説の間、外では七人の長老がじっと耳を傾けていました。

「参加してとてもよかったわ。
 彼女と一緒にがんばりたいわ」
「ただ平和であればいいの。
 何の心配もなく暮らせるようにしてほしいの」

「お前は言いたいことは言ったな。
 今度は俺の提案を聞いてくれるんだろうな」


選挙戦たけなわのある日、ショルガラ地区でシーア派の長老達が集まりました。
ショーラが推す候補者の当選を確実にする為の集会です。
長老達はショルガラ地区のシーア派に関係する候補者六人を呼び出しました。
自分達の推す軍閥出身のジャウィード候補を必ず当選させる為、
他の候補者の出馬を取り止めさせようとしました。
票の分散を防ごうとしたのです。
多くの村人がモスクを取り巻きました。
取材班の立ち入りは禁じられ、話し合いが始まりました。
(シーア派の長老)
「今必要なのは候補者の数を減らすことです。
 我々の声を国会にあげる為には
 必ず我々の代表を国会に送り出さねばなりません」
ショーラの長老だけで意見をまとめる為、集まった村人を追い返そうとします。
「長老だけで話し合って決めたいと思います」
一人の候補者が声を挙げました。
「ショーラだけでショルガラ全体の運命を決めてはいけない。
 長老以外は帰れというが、私は納得できない。
 みんな自分の意思で投票すべきだ。
 あなたの票も長老の票も同じ一票のはずだ。
 だからショルガラの全ての人はこの話し合いに参加すべきだ」
(外では大きな拍手が巻き起こりました)
 更に長老達に異を唱える意見が続きました。
(ショーラ反対派)
「ここにいる長老の方々、候補者、そして仲間達。
 みんなに十分な時間を与えて自分の考えや目標を発表させよう」
(ショーラ賛成派)
「長老達に任せるべきだ。その他の人は帰ってもらおう。
 結論を出すのはショーラだ。その結論は尊重すべきだ」

 結局、話し合いはまとまりませんでした。

 真っ先に反対意見を述べたモハシニー候補。
長老の突然の要求に思わず立ち上がったのだといいます。
「私の意志とは関係なく、何故他人が私の運命を決めるんですか。
 ショーラが候補者に辞めろという権利はありません。
 ショーラを否定している訳ではなく、たとえショーラといえども、
 候補者の自由を奪ってはいけないということが言いたいのです」

 長老アブドゥル・マリック師
「国連は立候補したい人は誰でも立候補していいと言っていますが、
 我々はそれに反対です。選挙の法律にも反対です。
 人々は皆自分の意思で投票したいと言いますが、
 村と都会はちょっと違うんです。
 ここには遊牧民もいるし、読み書きのできない人もいます。
 選挙というものをよく分からない人が多いのです。
 もちろん我々は強制している訳じゃありません。
 みんな自由です」


 選挙戦は終盤に差し掛かりました。

アーレミさんは、この日、女子高を訪ねました。
生徒の中には選挙権を持つ成人した女性も少なくありません。
戦争の為、学校に行けなかった人が
字の読み書きだけはできるようになりたいと通っているのです。

「貴方達若者が学ぶ機会を増やしたいの。
 いずれ母親となり未来を受け継いでいくのですから」


 投票日

候補者が用意した車に分乗してやって来た人も少なくありません。

写真付きの登録カードで身元確認が行われます。

アフガニスタンでは立候補者七人が殺害されています。

「誰に投票するか、どのように決めたの」
「......」
「自分の意思だと言いなさい」

 投票所には若者の姿が目立ちました。
「あなたはショーラの決定で投票しましたか」
「いいや、ショーラの決定は一つの意見に過ぎないね」

ショルガラ地区の有権者は約十万人。
登録したのは、五万八千人。
実際に投票したのは、更にその半数でした。


 民主化はイスラム社会に根付くのか
 その試みはまだ始まったばかりです。


・ジャウィード:9408票:当選
・アフガル  :2180票:落選
・アーレミ  :2321票:落選

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